中国本土や世界各地で発生した習近平政権の「ゼロコロナ」政策への抗議活動について、習指導部は「敵対勢力を摘発する」としてデモ参加者の連行や検閲の強化を始めた。欧米は人権問題の観点から批判を強めるなか、危惧されるのが在留邦人や日系企業の安全だ。専門家は、中国の国内法で在留邦人が「スパイ」として拘束されたり、日系企業の資産が没収される恐れもあると指摘する。

29日の国営通信新華社によると、習指導部は治安維持に関する会議を開き「敵対勢力の浸透、破壊活動や社会秩序を乱す違法な犯罪行為を法に基づき断固取り締まる」との方針を確認した。

中国当局は大量の警官を街に展開した。複数の人権派弁護士によると、デモの主体となった学生らから「友人が夜中に警察に連れ去られた」「大学から圧力を受けた」といった相談が相次いでいる。デモの動画の検閲も行われているという。

1989年の天安門事件以降、中国指導部はデモや政府批判を国内外の「敵対勢力」が扇動したとして、取り締まる口実としてきた。

在中国の日本大使館は、不測の事態に巻き込まれることを避けるため、デモに近づかないよう求めている。デモのきっかけとなった新疆ウイグル自治区ウルムチの火災の追悼行事にも近寄らないよう呼びかけた。

抗議活動のきっかけとなった厳しいロックダウン(都市封鎖)については現地の日本人も苦労している。だが、中国事情に詳しい評論家の石平氏は「在中国の日本人は、応援する気持ちがあってもデモに近づくべきではない」と警鐘を鳴らす。

中国各地の街頭にある監視カメラが人工知能(AI)搭載の顔認証システムと連動しているとみられ、個人が特定されるリスクは高い。

「傍観するだけならまだしも、運動に参加すれば『反スパイ法』に問われる恐れがある。中国人自身の抗議運動であっても『外国の敵対勢力に操られている』と、運動の性格を歪曲(わいきょく)する格好の口実を当局に与えることは逆効果だ」と指摘する。

中国では外国人の管理を強化するため、2014年に「反スパイ法」が制定された。15年以降、日本人16人がスパイ行為などで拘束され、9人が懲役3~15年の実刑判決を受けたとされる。

今年10月には、6年の刑期を終えた男性が日本に帰国した。男性は、各国メディアが既報した中国国外の公開情報を話しただけで、スパイ罪に問われたという。同法第38条にスパイの定義があるが、5項に「その他のスパイ活動」とあいまいな定義があり、拡大解釈できるといわれている。

米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報調整官は28日、「市民が異議を唱える政策に対し平和的にデモをする権利が認められるべきだ」と強調。英国のスナク首相は同日、英中蜜月の「黄金時代は終わった」と断言した。

中国の張軍国連大使は中東の衛星テレビ、アルジャジーラの取材に「自由を優先するならば(感染で)死を覚悟しなければいけない」と述べた。

習政権は「ゼロコロナ」を続けるのか。経済評論家の渡邉哲也氏は「習氏は抗議の拡大を望んでいないが、ロックダウンを緩めて自身の政策の誤りを認めるわけにもいかない。その適正解は『強権的な弾圧』になる。日本企業はその場合、活動が難しくなる恐れがある」と指摘する。

企業への影響は広がっている。ホンダは28日、湖北省武漢市にある自動車工場の稼働を停止したと明らかにした。コロナ禍の外出制限で従業員が出社できなくなったという。同社は重慶市の工場も停止している。

「ゼロコロナ」が人権問題の色合いを帯びるなか、現地の日系企業が米中対立に巻き込まれるリスクが強まっている。

米国が新疆ウイグル自治区の人権侵害について制裁を科した「マグニツキー法」と同様の措置を中国全体に適用する可能性もあるという。これに対し、中国も対抗措置として「反外国制裁法」を適用するリスクがあると渡邉氏は警告する。

「中国が『反外国制裁法』で外国企業の活動停止や資産没収を命じる可能性はゼロではない。習氏は政権維持が最優先で、経済合理性を無視した対処を行うと考えられ、日本企業も逃げようがない。日本政府は供給網の移転や、中国撤退の会計上の処理などに関し指針を作り対応するしかないのではないか」

11/30(水) 17:00配信
夕刊フジ
https://news.yahoo.co.jp/articles/b4f20366a72624f66de7527ce7c3b568ea062454