韓国人は、日本人と比べると、何事にも楽観的な見通しを立てる。韓国の経済界を主導する思考方式は「…たら・れば…はず」と言える。賭博好きの国民性が、ここに絡む。「…はず」に光明を見いだしたら、一か八かの大勝負に出る。

サムスンがDRAM製造の覇権を握ったのも、こういう思考・行動パターンだった。しかし、このパターンは判断を一度誤ると、泥沼から抜け出せなくなる。現代自動車が「中国という大泥沼」の中で右往左往するのは、その典型だ。

振り返れば、2009年11月、現代自グループの鄭夢九会長(当時)が中国の序列ナンバー4と会見したのが、泥沼に足を踏み入れるきっかけだったのだろう。

中国も韓国も「序列重視国家」であり、「官(党)尊民卑」の文化だ。ナンバー4が会ってくれたと舞い上がったのは当然すぎる。

会見の中身は表に出ていない。ただ、鄭会長が会見直後、「中国に年産30万台規模の第3工場を建造することにした」と述べたのは、ナンバー4の発言に限りない光明を見いだしたからだろう。「投資すれば、大成功するはず」の思考パターンがフル回転を始めたのだ。

すぐに、第3工場の生産能力は45万台に上方修正された。子会社の起亜も中国工場を増設した。第4、第5工場の建設も始まった。19年には、現代自グループの中国での生産能力は270万台にも達した。

この間に、米軍の高高度ミサイル防衛網(THAAD)問題が発生した。朴槿恵(パク・クネ)政権が、韓国内にTHAAD基地設置を容認したことへの中国の報復だ。基地用地を交換譲渡したロッテグループは最大の標的になり、スーパー部門は施設を二束三文で売却して撤収した。

現代自も販売が大幅に落ち込んだ。だが、現代自は「朴政権が倒壊すれば、元に戻るはず」と読んでいたようだ。あの時に見た光明がよほど強烈だったのだろう。

「25%のディスカウント販売」「ユーザーが失業したら、車を引き取ります」と、いろいろ手を打った。

中国市場での現代・起亜の合計シェアは12年には10・5%で3位だったが、回復するどころか、21年の販売台数は53万台で、合計シェアは2・7%にまで落ち込んだ。

とりわけ、「挽回の切り札」とされた高級車「ミストラEV」は、販売開始から7カ月で69台しか売れなかったというから悲惨だ。

現代自は21年に中国第1工場を売却、重慶工場の生産を停止するなど、過剰設備の整理を進めたが、稼働率は20~30%という。それでも、泥沼から抜け出すことはできないのだ。

欧米や東欧圏での儲けで、中国の赤字を埋めて、オール現代としては「黒字」ということになっているが、米国の金利引き上げ、韓国内の異常金利高が今後どう影響してくるか。超強力労組の存在も含めて、現代自グループは暗い材料でいっぱいだ。(室谷克実)

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