人間なら誰でも「人によく思われたい」と考えている。人気によって生きる政治家であればなおさらだ。しかし単によく思われるためではなく、自らの過ちを隠すために事実関係を偽り、うそで塗り固めれば犯罪に近づく。文在寅(ムン・ジェイン)前政権はその粉飾があまりにもひどかった。国の統計データまで捏造(ねつぞう)した疑惑を監査院が現在調査中だ。

 文在寅前政権が「所得主導成長」を掲げ最低賃金を一気に引き上げた影響で、就業者の増加幅が一気に縮小し、下位20%階層の所得が37%も減少した。すると文在寅前政権は統計の基準と計算方法に手を加え「最低賃金引き上げによる肯定的な効果は90%」と主張した。その過程で指示に従わない統計庁長を更迭した。脱原発をごり押しするため月城1号機の経済性を捏造して縮小し、さらには不動産政策の失敗を隠すため住宅価格関連の統計を書き換えた。一般的によく使われるKB金融の統計によるとソウル市内のマンション価格は4年で2倍近くにまで高騰したが、文在寅前政権は標本数が非常に少ない不動産院の統計を持ち出し「14%上昇した」と主張した。不動産院の統計は、作成の過程で価格が高騰したマンションのデータを意図して除外、あるいは上昇分を小さくして入力した痕跡も見つかっているという。それでも文在寅前政権で青瓦台(韓国大統領府)にいた韓国野党・共に民主党のある議員は「統計の歪曲(わいきょく)ではなく統計システムの改善」と強弁している。統計は政策の基本となるため、これを歪曲すれば国が滅びかねない。ギリシャは国内総生産(GDP)に対する財政赤字の割合が13.6%だったが、これを6%と小さく発表したため最終的に国が不渡りを出した。

 文在寅前政権は外国に関するデータも粉飾した。「在韓米軍のTHAAD(高高度防衛ミサイル)電磁波は人体に害がない」とする検査結果を隠す一方で、「日本の福島原発事故で1368人が死亡した」とするデマを広めた。2019年に韓日軍事情報包括保護協定を破棄した際には「米国に理解を求めたし、米国も理解した」と説明したが、米国政府は即座に「そんなことはしていない」と否定した。G7(先進7カ国)首脳会議の団体写真から他国の大統領をカットし、文前大統領が中央に立っているかのように写真を捏造した。その上で「大韓民国の国格と立場は百万の言葉よりも1枚の写真の方がより強く伝えている」と説明した。写真の捏造が明らかになると「制作上のミス」と弁解した。北朝鮮が西海で韓国の公務員を射殺し遺体を焼却した際には、「越北」とレッテルを貼るため韓国軍と国家情報院の極秘情報を削除した。遺族による資料の閲覧も拒否し、関連する情報は大統領記録館に封印した。新政府がこれら一連の事実関係について調べようとすると「無礼だ」と叱りつけた。

 粉飾は自らの失敗やミスを隠すために行うものであり、言い換えれば本当の姿、つまり間違いが明らかになってほしくないのだ。そのため「忘れてくれ」と言い出す。文前大統領の「退任後は忘れられたい」という言葉は「退任後は捜査や処罰を受けたくない」と同じ意味だ。文前大統領の「粉飾担当者」だった卓賢民(タク・ヒョンミン)元秘書官は「文前大統領は本当に忘れられるため大きく努力するだろう。退任後は文前大統領を追い込まないでほしいし、追い込めばかみつくだろう」と述べたが、この言葉も上記の一連の流れからその意味が理解できる。共に民主党は「忘れられた文在寅」をつくるため、大統領選挙で敗北すると同時に検察の捜査権を奪った。今検察ではなく監査院が文前大統領の過ちを指摘すると、今度は「監捜完剥」(監査院捜査権の完全剥奪)の法律を作るという。「民間人となった文在寅前政権の関係者を監査対象から除外する」と定めたこの法律は誰が見ても「文在寅前政権防弾法」だ。国民を欺き、うそが明らかになれば違うと強弁する。強弁できなければ法律を変えて捜査や処罰ができないようにする。忘れるころに同じようなことが繰り返されるのだから、国民は忘れようにも忘れられない。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は文在寅前政権を反面教師としなければならない。ありとあらゆる「ショー」と粉飾で国民をしばし欺くことはできても、真実はいつか明らかになる。少なくともうそはつくべきでない。尹錫悦政権はこれを守るだけでも政権として成功するはずだ。

黄大振(ファン・デジン)記者

朝鮮日報 2022/12/31 18:08
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