【ソウル=時吉達也】いわゆる徴用工訴訟問題で6日、韓国政府は訴訟原告への賠償金を韓国財団が支出する解決策を正式に発表した。
弁済措置が計画通りに履行されるかが今後の焦点だが、過去には日韓合意が後の政権でほごにされた経緯もあり、
「政権交代リスク」が懸念材料となる。政府に反発する原告側も訴訟の長期化を図る方針を示すなど、国内事情が今後の行方を左右しそうだ。

「外交史における最大の恥辱であり汚点だ」。革新系最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表は6日、解決策が過度に日本側に譲歩していると非難を強めた。

解決策の履行に向け、今後は①財団による原告への弁済が順調に進むか②賠償金を支出した財団が「求償権」を行使し日本側に返還を求める事態が生じないか-が問題となる。

このうち、後者で懸念されるのは、李氏率いる共に民主党が政権を奪取するケースだ。
保守系の朴槿恵(パククネ)政権下の2015年に発表された慰安婦問題を巡る日韓合意も、政権交代後に革新系の文在寅(ムンジェイン)政権下でほごにされている。

韓国外務省によると、財団側が保有することになる求償権は韓国民法上、10年で時効を迎える。
5年に1度大統領選が実施される韓国で、現政権の解決策が安定的に維持されるには、少なくとも今後2回続けて政権与党が勝利する必要があるが、確率は高くない。

韓国外務省の元高官は「尹錫悦(ユンソンニョル)政権が真に対日関係改善を望むなら、与野党対立を解消し、政権交代後も外交方針を維持させることが重要だ」と指摘する。

また、①の問題でも黄信号がともっている。原告の一部は財団の拠出金を拒否する方針だが、韓国外務省高官は6日、原告が受領を拒んだ場合も「裁判所への供託が可能だ」と説明。
日本企業側の「債務」は解消されるとの見方を示した。

これに対し、原告支援団体は、債権者である原告の意向を無視した手続きは「無効」だとして、訴訟に踏み切る方針。最終的な問題解決までには相当の時間を要するとみられる。

原告代理人の林宰成(イムジェソン)弁護士は6日「日本政府が何の負担も責任も負わず、外交的に勝利した日になった」と述べ、解決策に応じない意向を改めて強調した。

関連訴訟のうち、当面の措置対象は原告勝訴が確定した3件。残る訴訟は66件だが、時効期限に抵触することなどから勝訴確定は一部に限られる見通しだ。

2023/3/6 23:22
https://www.sankei.com/article/20230306-GLKAZ6TGHZOKNAGB4HA7BRHEFY/