ー前略ー

「中国に置く半導体生産拠点を撤収できないのか?」

 米国はサプライチェーン再編の最大の目標を、最先端半導体の独占に置いている。
日本の安全保障分野の専門家は「AIや量子コンピューター、バイオなど、米国が中国に優位を保っている分野に欠かせないのが、最先端の半導体だ」と語る。
そして、最先端の半導体を生産できる企業は、世界で事実上、韓国のサムスン電子、台湾のTSMCの2社に絞られつつある。

 米国は水面下で韓国政府を通じ、サムスン電子が中国に置く半導体の生産拠点を撤収できないか、探りを入れているという。
米韓関係筋は「サムスンは、中国で生産しているのは最先端ではない半導体だから問題ないだろうと反論しているようだ。
だが、米国は、生産拠点があれば、人材や情報が漏れることになるとして、サムスンの態度に不満を持っている模様だ」と語る。

 サムスン電子は15日、総額300兆ウォン(約31兆円)を20年間かけて投資し、ソウル近郊の京畿道龍仁市に最先端半導体の研究開発から生産までを扱う拠点を設けると発表した。

 別の米韓関係筋は「これは、中国に追加投資ができない状況に追い込まれたサムスン電子の、米国に向けたメッセージでもあるだろう」と語る。
尹政権は16日の日韓首脳会談で新たな経済協議体の発足でも合意した。
こうした動きは、「Chip(チップ)4」と呼ばれる、米国・日本・韓国・台湾による半導体サプライチェーンの新ネットワークを目指すバイデン政権を大いに喜ばせたようだ。

 また日本に視点を戻すと、経済産業省は16日、日本政府が2019年夏に厳格化した韓国向け半導体素材などの輸出管理措置の解除を発表した。
これも、「サプライチェーンの再編で忙しいときに、日韓で何をやっているのか」と腹を立てていた米国政府にとって朗報となった。

「統合抑止」でも前進

 そして、米国が重視する統合抑止でも、日韓の間で大きな進展があった。日韓両首脳が16日の日韓首脳会談で日韓GSOMIAの正常化で合意したからだ。
韓国政府は21日、日韓GSOMIA正常化の手続きを終えたと発表した。元々、日韓GSOMIAが破棄の危機に追い込まれたのは、文在寅政権が日本の輸出管理措置に対抗するカードとして使ったためだった。
輸出管理措置の解除で、尹政権は日韓GSOMIAの正常化に舵を切ることができた。

ー中略ー

日米韓は昨年11月の共同声明で「北朝鮮のミサイル警戒データをリアルタイムで共有する」としたが、今後は警報システムの共有から撃墜システムの共有へと進化していく可能性が高い。
米国にしてみれば、「日本と韓国がGSOMIAを正常化しないと、統合抑止が進まないだろう」という不満があった。 
米国が韓国に対して抱いていた「半導体サプライチェーンの構築」と「日米韓情報網の共有による統合抑止力の前進」という2つの問題は、尹錫悦大統領の訪日などで大きく前進したわけだ。
米韓両国は、金聖翰室長が3月5日から訪米した後に、尹大統領の国賓訪問を発表した。おそらく金室長が訪米時に、日韓関係の進捗状況を説明し、米側の了解を取り付けたと思われる。

 ただ、米韓関係はこれですべて進展したことにはならない。サムスン電子は依然、中国国内に半導体の生産拠点を維持している。サムスンにしてみれば、
「中国から撤退しろというなら、代わりのマーケットを見つけてくれ」と言いたいところだろうが、米国は「それはサムスンが考える問題だ」として取り合わないという。

全文はソースから

現代ビジネス 牧野 愛博(朝日新聞外交専門記者) 3/23(木) 7:02配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/64f739cdb797b79e8ac1ad06ffa41e58f63f7f30