尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が来日し、岸田文雄首相と久しぶりに首脳会談を行い、いわゆる徴用工問題について政治的決着をつけたことは、日本国内では歓迎されている。

政府、自民党、保守的なメディアにとっては、そもそも元徴用工による補償の要求自体が1965年の日韓請求権協定で賠償問題を最終的に解決したことに矛盾するのであり、韓国政府が補償を肩代わりするのは当然ということになる。

私は、そのような見方には反対である。1965年といえば、朴正煕(パク・チョンヒ)政権の時代であり、条約は、韓国の人々の自由な議論の上に成り立ったものではない。

韓国が民主化されて、ようやく、元徴用工の人々は声をあげるようになった。日本が起こした戦争に巻き込まれた人々に対して補償することは、日本人にとって、法律的な義務でないとしても、道徳的な義務だと思う。

この問題については、ドイツで行なったように、日本政府と日本企業も拠出する基金を作って、被害者に補償するというスキームをつくるしかないと思う。今回、韓国政府がつくった財団には日本からも寄付をすべきである。これからも、日本国内でそのような声を出し続けたいと思う。

今回の決着について感じる最大の疑問は、尹政権が日本側の法的賠償義務を否定してくれたのをよいことに、岸田政権が、尹大統領が求める誠意ある呼応をまじめにしようとしないという点である。

岸田首相は、日韓首脳会談の直後の記者発表で、「日本政府は、1998年10月に発表した日韓共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体として引き継いでいることを確認」したと述べた。

歴史認識に関する歴代内閣の立場とは、1995年の村山談話をはじめとする植民地支配に対する反省と謝罪である。引き継ぐことは当然であるが、岸田首相は、それに付け加えるべき自分の言葉を持っていないのだろうか。

米国のバイデン大統領は、第2次世界大戦中の日系人の強制収容を命じた大統領令から81年たった今年2月20日、「誤った収容により日系人の家族を引き裂いた」と米政府として改めて謝罪したうえで、ローマ字で「Nidoto Nai Yoni(二度とないように)」と誓った。大統領の率直な謝罪は、日本人にも感銘を与えた。

岸田首相は、国際社会における自由、民主主義、法の支配の担い手になることをことあるごとに強調している。日本が法の支配を尊重したいなら、自国が過去に行なった人権侵害を真摯に謝罪しなければならない。

日韓請求権協定をたてにとって、被害者の声に耳を傾けない態度は、政府としては法の支配を守っているつもりかもしれないが、人権侵害を正当化し、法の精神を無視することを意味する。

岸田首相が、国際社会における法の支配の擁護者となるためには、ロシアによる戦争を非難するだけでなく、自国の過去における人権侵害とも向き合わなければならない。

今年は、関東大震災から100年でもある。震災の際に起きた朝鮮人虐殺をめぐって、いまの日本人が過去の罪と向き合う誠意を持っているかどうか、あらためて問われることとなる。

震災の起きた9月1日、震災の犠牲者の追悼だけでなく、虐殺された朝鮮人を慰霊する行事が行われ、歴代の東京都知事は、石原慎太郎氏を含め、慰霊のメッセージを寄せてきた。しかし、小池百合子知事は就任以来、メッセージを出していない。

2月21日の定例都議会でこの問題について質問され、「何が明白な事実かについては、歴史家がひもとくものだ」と述べて、虐殺の有無について触れないというこれまでの姿勢を繰り返した。

虐殺は、歴史家が探求するまでもなく、明白な事実である。何が事実かわからないという小池知事の態度は、虐殺の存在を否定する歴史修正主義を勢いづける、極めて政治的なメッセージである。震災100年に当たって、改めてわれわれは過去を直視しなければならない。


2023-04-03 07:20
http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/46361.html