出石 直 解説委員

岸田政権は少子化対策を強化するための具体策や財源の検討を進めています。
その少子化が日本以上に進んでいるのがお隣の国、韓国です。出生率は0.78、韓国政府は20年近く前から少子化対策に取り組み莫大な予算を投じてきました。
しかし極端な少子化は進む一方です。どうしてでしょうか?

(略)

【韓国の少子化対策】

韓国政府も手をこまねいていたわけではありません。
今世紀に入って少子化対策に本格的に取り組みました。労働力人口が減り国際競争力が低下するという危機感からでした。

(略)

2006年からこれまでに韓国政府が少子化対策に費やした予算は、実に280兆ウォン、日本円にしておよそ28兆円にのぼっています。

【効果があがらなかった少子化対策】

それにも関わらず韓国の少子化は進む一方です。どうしてでしょうか?

無償保育のように、子どもを預ける親は増えたのに公立の保育園の数が足りず、かえって子育て不安を煽ってしまった失敗もありました。しかしそれだけではないようです。

日本にも紹介されベストセラーになった小説「82年生まれ キム・ジヨン」です。主人公の女性は1982年生まれ。何度も壁に当たりながら大学を出て就職し結婚して娘を出産します。しかし育児ストレスからやがて精神に支障をきたしていきます。
ここに描かれているのは、この世代の韓国女性の多くが経験する“生きづらさ”です。

ある調査では64%が「結婚に負担を感じる」、77.2%が「子どもがいると就業やキャリアに制約を受ける」と答えています。(韓国女性政策研究院2019)

こうした“生きづらさは女性に限ったことではありません。
「3放世代」、これは「恋愛」「結婚」「出産」の3つを放棄せざるを得ない若者を指す言葉です。「就職」と「マイホーム」を加えた「5放世代」という言葉も誕生しました。

韓国社会に詳しい専門家は「家計は男性が支え、家事は女性が担う」「働く女性を労働力としてしか見做さない」という古い価値観が影響していると指摘します。

(聖学院大学 春木育美教授)
「個人の生活の質や家族生活の幸福度よりも、経済的効率や労働優先といった旧来の価値観が染み込んでいて、こうした旧来の価値観が変わらない限り、やはり自分たちの未来に不安を抱えざるを得ない。/こうした状況を変えていかなければ安心して子供を産んで育てようという気持ちには到底ならないと思います」

ここまで韓国の少子化の現状と対策について見てきました。
男性の育児休暇が広がるなど一定の効果もありましたが、「産めよ増やせよ」といった掛け声では若者の意識を変えることはできませんでした。予算をつければ少子化が止まるということでもなさそうです。

10年後、20年後の未来に希望がもてない。仕事か家庭かどちらかを犠牲にしなくてはならない。こうした生きづらさは、韓国に限ったことではありません。
仕事と家庭生活が両立できる社会、将来に希望をもてる社会にしていくことが、何より求められているのではないでしょうか。少子化を食い止めることができなかった韓国の経験を他山の石として、日本政府には実効性のある少子化対策を打ち出してもらいたいと思います。

https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/100/481903.html