米海兵隊が導入する地上発射型の長射程巡航ミサイル「トマホーク」(射程1600キロ以上)の日本を含む外国への配備が見送られることになった。東アジアでの中国との「ミサイル格差」を埋めるため、日本やフィリピンへの配備が有力視されてきたが、難航が予想される同盟国との正式な交渉入りを避けた形だ。中距離ミサイルを巡っては、米陸軍も導入を進めているが、日本やフィリピンでの拠点が乏しく、外国への配備が実現するかどうかは不透明だ。

 日米両政府は、2019年に中距離(射程500~5500キロ)の地上発射型ミサイルの保有を禁止する米露の中距離核戦力(INF)全廃条約が失効したことを受けて、米軍の中距離ミサイルの日本への配備について水面下で協議してきた。INF全廃条約に縛られない中国は、条約失効時点で2000発近い中距離の弾道・巡航ミサイルを保有していると推定されており、「ミサイル格差」への危機感が高まっていた。

 ただ、米軍が実際に地上発射型の中距離ミサイルを保有していなかったこともあり、正式な交渉には入っていなかった。米海兵隊は19年以降、ミサイル開発を促進。条約対象外だった海上発射型の対地攻撃ミサイル「トマホーク」を改良し、既存の発射機、陸上車両、ミサイル制御装置を活用することで、早期のトマホーク導入にめどを付けた。

 海兵隊のトマホークについて、米国の安全保障専門家の間では、ハワイ州で22年に新設され、沖縄県でも25年までに編成される海兵沿岸連隊(MLR)と連携して運用するとの見方があった。MLRは中国を念頭に、敵のミサイル脅威圏内で離島などに分散して展開し、情報収集や対空・対艦ミサイル攻撃を担う。射程が長いトマホークと連携すれば、敵の艦船や航空基地へのけん制を強化できる。日本政府関係者は「中国の沿岸部を射程に収められる九州や沖縄が配備候補地になり得る」との見方を示していた。

 しかし、日本への配備を巡っては「政治的なハードルが高い」(日本政府関係者)との声があった。実際にミサイルを配備するには、政府間での協議や地元の理解が必要となる。沖縄県を中心に基地負担軽減を求める声が大きい日本でも、恒常的に駐留可能な基地がないフィリピンでも、容易に進まないのは目に見えていた。米海兵隊が日本への配備を見送ったのは、こうした政治的事情も考慮したとみられる。

 米軍では、陸軍が年内にも長距離極超音速ミサイル(LRHW、射程2700キロ以上)、地対地誘導ミサイル「PrSM(プリズム)」(射程500キロ以上)、両ミサイルの中間の射程を持つトマホークやSM6といった地上発射型ミサイルを相次いで配備する。

 米陸軍内には日本へのLRHWの配備を求める声があるが、陸軍は海兵隊に比べても日本での拠点や人員が少ない。米軍の増員や基地の拡充を含む場合、日米間の調整が難航するのは必至だ。米軍高官も「米陸軍の日本での役割を拡充する用意はあるが、日本政府の同意がなければ進められない話だ」と指摘しており、当面の日本への配備は現実味が乏しい。

 米軍は、空中・海上・海中発射型のミサイル能力を備えており、地上発射型のミサイルがなければ、中国などに対抗できないわけではない。海に囲まれた台湾の周辺や南シナ海では、むしろ爆撃機や戦闘機、潜水艦などから発射するミサイルが重要になる公算が大きい。しかし、補給の容易さなどを考慮すると、中国をけん制する上で、地上発射型ミサイルを中国の近隣に配備する利点も大きい。日米両政府は今後、自衛隊の反撃能力保有に合わせて、自衛隊と米軍の役割分担や運用面での協力態勢などを議論する方針だ。中国などの軍事的動向も見ながら、米軍の中距離ミサイル配備の必要性に関しても協議されるとみられる。【ワシントン秋山信一】

毎日新聞 2023/4/20 05:01(最終更新 4/20 10:28)
https://mainichi.jp/articles/20230419/k00/00m/030/288000c