ー前略ー
・「日本の学生と喧嘩になるんじゃないかと思った」
 今回のイベントは7月15日から17日にかけて、ソウル市内のユースホステルで開かれた。参加者はスタッフ合わせて約50人。日韓の大学生・大学院生が集まった。討論は午前中に始まり、最終日の発表に向けて準備を進める。10名程度のチームが5つあり、それぞれのテーマは「政治・外交」「社会・文化」「歴史」「ビジネス・民間交流」「在日」。僕は「歴史」チームの議論に参加した。

「歴史」チームの参加者は、日韓で話題となった映画『軍艦島』(2017年)を素材として、戦時期の朝鮮人労務動員(いわゆる「徴用工」問題)について発表することになった。難しいテーマだが、日本人学生、韓国人学生が日韓両政府の立場の違いをバランスよくまとめていた。

 議論の中で、ある日本人学生が「日本では韓国の立場を知る機会があまりない」と言うと、韓国人学生は「私たちも韓国の立場しか知らなくて、日本政府の主張を知る機会は少ないです」と応じる場面も。それぞれの学生は、政治的になりがちな歴史問題とはうまく距離を取って議論しているように見えた。

「歴史」チームのチェ・スミンさん(22)に話を聞いた。スミンさんは韓国外国語大学の日本言語文化学部で学んでいる。日本のアニメが大好きで、お気に入りは週刊少年ジャンプの漫画「HUNTER×HUNTER」。

 スミンさんは「強制徴用の問題で議論するなんて、最初は日本の学生と喧嘩になるんじゃないかと思ったんですよ。これまで生きてきて、歴史問題では『日本は敵だ』という認識しかなかった」と明かす。「でも、日本人学生はとても優しくて、喧嘩になんてならなかった。競争心が強いのは自分の方だったと気付きました。しかも、調べていくうちに、自分こそ何も知らないんじゃないかと思ったんです。1965年の日韓請求権協定は今回初めて読みました。読んでみると、韓国政府が5億ドルを受け取りながら、徴用の被害者に向き合ってこなかった責任が大きいと思いました」。2泊3日でこれほど考え方が変わるのかと驚かされた。

・原発処理水放出問題についても議論
 福島の原発処理水放出問題について発表したグループもあった。韓国の学生はこの問題をどう考えるのだろうか。発表は処理水の放出方法から始まって、IAEAの報告書の客観性を説明し、アメリカや中国の対照的な反応を紹介するという構成だった。冷静かつ理性的で、科学的な内容になっていた。頭の凝り固まった韓国の野党「共に民主党」の国会議員より、柔軟な学生の方が科学的理解力が高いのだ。

 僕は、発表していた韓国の男子学生(19)に「とても素晴らしかったです、感動しました」と握手を求めた。学生は「野党の国会議員は日本を批判して票を集めたいだけですよ。だって、IAEAのレポートが信じられなかったら、一体何を信じるというんですか? 韓国でもちゃんと科学的な理解をする人が増えることを願っています」と語っていた。

 MVPに選ばれたのは、聖心女子大学1年の大浦地唯花さん(18)。日本からこのイベントのために韓国に来ていたことも大きな評価ポイントとなった。嬉しそうにはにかむ大浦地さんに話を聞いた。「私は元々K-POPが好きで、来年か再来年から韓国に留学したいと考えています。今回のイベントは先輩から聞いて参加を決めました。原発の処理水の問題を調べたのですが、ニュースでは知っていても深くは理解していなくて。韓国の学生はすごくフレンドリーなうえ、議論を積極的に引っ張ってくれました。すごく刺激を受けました」。日本の学生にとっても貴重な機会となったようだ。

・肩を組み、酒を酌み交わす学生たち
ー後略ー

(韓光勲:在日コリアン3世ライター)
2023.7.25(火)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/76130