中国は、「ふしぎな国」である。

 いまほど、中国が読みにくい時代はなく、かつ、今後ますます「ふしぎな国」になっていくであろう中国。
ー中略ー

 1995年9月から北京大学に留学した私だが、ほどなく一人の「悪友」ができた。彼は日本の公的機関から派遣されていたが、
記者顔負けの好奇心を持つ豪傑だった。夜な夜な外出し、深夜に「勺園」(留学生寮)に戻って来る。ある時、問うたら、あっさり吐いた。

 「中国には31の地域があるだろう。広すぎて全部回ることなんかできない。そこで毎晩、各地域の『小姐』のお相手をすることにしたんだ。
これなら1ヵ月あれば、中国全土を制覇できるではないか。各地の特徴も『体感できる』というものだ」

 私は納得したような、しないような……。ともかくひと晩、彼に同行してみた。
市内朝陽区某所にひっそりと立つ、さも怪しげなマッサージ店。だが店内は、盛況だ。

 休憩室でだいぶ待たされ、薄汚れた中国の雑誌をめくっていると、バタバタと大きな音がした。
振り向くと、拳銃を構えた公安(警察)が20人くらい、一斉になだれ込んできた。

 「全員両手を壁に付けて、後ろ向きに立て!」

 室内に「キャーッ」という悲鳴が上がる。男も女も、店員も客も、万歳のポーズを取って壁際に立つ。もう訳が分からない。

 私が誰何される番になった。公安の一人がソニーのハンディカムを回し、もう一人がカバンや、
ポケットに入った財布の中身などを、くまなくまさぐる。学生証が発見された。

 「お前は北京大学の留学生か?」
「はい」
「留学生がなぜこんな時間に、こんな場所にいるんだ?」
「勉学で身体が疲れたので、マッサージを受けようと……」

 その間、私の脳裏を掠めたのは、北京大学の日本人留学生たちの間で、まことしやかに伝わる都市伝説だった。
それは、買春行為を行った外国人は、パスポートに「買春行為により国外退去」と書かれた黄色いスタンプを押されるというのだ。
赤い表紙のパスポートに、黄色の烙印……。

 「お前たち二人は、すぐにここを出ろ!」
ー中略ー

 隠しカメラを身に付けた男性記者が客を装い、市内のホテルのバーに入るところから映像は始まる。
店内中央の舞台では、あられもない格好の「小姐」たちが、腰を振ったり脚を上げたり。それぞれ腰に番号をつけており、
客席から指名がかかれば、900元(約1万8000円)で売られていく。すなわち上階の客室へ行って売春行為に及ぶというわけだ。

 市内の別のホテルでは、宿泊費に「小姐二人」の売春代金も含まれていた。
彼女たちは部屋に入ると、挨拶代わりに「裸舞(ルオウー)」(ヌードダンス)を披露し、3Pが始まる……。

 番組では、大同小異の計六つのホテルが登場した。記者は売春現場を隠し撮りするたびに、
律儀に公安に通報して「○○ホテルでいま違法行為の売春をやってます」と告げるが、公安は「あっそう」で終わり。
おそらく公安が私服で行けば、無料招待となるのだろう。

 こんな前代未聞の暴露番組が突然、全国放映された東莞市は、蜂の巣を突いたような騒ぎとなった。
徐建党委書記(市トップ)は翌朝、党の常務委員会を招集し、自らが小グループ長となって「掃黄小グループ」を立ち上げた。
同日、東莞市公安局は、市内1948ヵ所の施設に対して、一斉手入れを行った。

 広東省公安局も、同日晩だけで、6000軒ものマッサージ店やカラオケ店などを捜査。
3日間で1万8372軒を摘発し、920人を拘束したと発表した。

 まさに一罰百戒だった。それから8年、もはや売春婦の「小姐」など消滅したと思いきや、2022年7月20日、
CCTVは「今年上半期、『掃黄打非』で5200件あまりを摘発し、うち850件あまりを刑事事件にした」と報じた。
コロナ禍で売春宿は減ったものの、ネットのエロ動画配信が増殖しているという。
ー後略ー
近藤 大介(『現代ビジネス』編集次長)

全文はソースから
9/9(土) 6:33配信
https://news.yahoo.co.jp/articles/f753a29215a506457ca46590a7d079a2866df934