世界中から観光客が訪れ、昼も夜も賑わうエネルギッシュな観光都市、香港。コロナ禍も落ち着き、いよいよ観光に本腰を入れよう、眠らない都市の賑わいを再び取り戻そうと、“夜の経済”を盛り上げるキャンペーンが香港政府主催で始まった。しかし、何かがおかしいのだ。香港のナイトライフが再び盛り上がらない、その理由とは。(フリーランスライター ふるまいよしこ)

● 2022年末から海外旅行客がOKになったのに 香港に観光客が戻ってこない

 9月14日夜、香港政府は2023年後半をめどに展開する「香港夜繽紛 Night Vibes Hong Kong」(以下、「ナイトバイブ香港」)キャンペーンの開幕を宣言し、その開幕式が行われた。開幕式のステージは陳茂波・財政長官の挨拶で始まり、獅子舞、ダンス、ローラーブレードを履いた若者のパフォーマンス、子どもたちによる美食、文化活動や人気観光地の紹介など30分ほど続いた。

 香港では2022年12月に海外からの観光客の入境、そして今年2月初めに中国からの訪問を再開したが、今年8月までに香港を訪れた観光客は中国からを含めてわずか2000万人あまりと、2018年同期の約半分にとどまっている。このうち中国以外の訪問客は403万人で2018年同期(906万人)の半分以下となり、さらに中国からの訪問客は料金が高めの香港のホテルに宿泊せず、深センに宿を取って往復する客が増えた。そのためホテルや商店、レストラン、さらに夜の楽しみを提供するバーやクラブなどから悲鳴が上がっている。

 加えて業界を不安にさせたのは、今年4月以降、今までなら市民が街に出て消費を楽しむ連休や夏休みなどでさえ大して売り上げが増えなかったことだ。特に“香港のゴールデンウイーク”と呼ばれる4月のイースター休暇には、あまりの閑古鳥ぶりに思い切って休みにした飲食店まで出た。というのも、香港市民はこの時期、連休や週末を利用して海外や中国に旅行に出かけるためだ。中でも近場で飲食、風景、温泉などを楽しめる日本への旅行は空前の大ブームとなっている。

 香港には外国人が来なくなった。中国人も物価の高い香港を敬遠する。市民は海外旅行で消費する。このままでは、どうにかコロナ期を生き残った観光業界も細るばかりだ……ということで、香港の魅力を対外的にアピールしなければと、政府は慌てて「ナイトバイブ香港」キャンペーンを画策したのである。

● きらびやかな看板も夜景も…… 「香港らしい景色」がどんどん消えている

 香港といえば、多くの人の脳裏にはあの路上をまたぐような大きなネオンサイン、ビクトリアピークやビクトリアハーバーの両岸から見える夜景が浮かぶだろう。だが、路上にせり出すような大型看板は老朽化が指摘され、またその看板の主である商店はすでに閉店、撤退しているケースも多く、ここ数年来香港政府がその撤去を進めている。このため、かつて観光客を引き寄せたあのド派手なきらびやかさはすでに観光写真で見るしかなくなっている。同時に路上ネオン看板を製作する業者もほとんどいなくなっており、香港ネオンは歴史の遺物になりつつある。

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 だがその「ナイトバイブ香港」が蓋を開けてみると、目新しいイベントも大してなく、開会式は盛り上げ不足と、香港市民のお祭り気分も高まらないままだ。さらには開会式翌日に、あろうことか隣町の深センが香港市民の訪問消費を歓迎するさまざまな優遇措置を発表。「香港市民の消費が深センに流れる」という不安の声も上がっている。

 李家超・香港行政長官は、「香港市民の深センとの住民往来は日常的なものであり、香港との競争関係にはない」と述べ、陳財政長官も今後「ナイトバイブ香港」のイベントをさらに多元的な、新味のあるものにしていくと宣言した。

 ただし、8月に香港から深セン入りした人の数は延べ600万人。中国から南下してくる人の数と差し引きすると、各週末だけで10万人多い香港人が深センに北上しているという統計数字も明らかになった。

 ……と、ここまで読んでお気付きだろうか。「ナイトバイブ香港」は冒頭に書いた通り、外国人観光客誘致を目的にしたはずのキャンペーンだった。だが、香港政府の目も、またそこで展開されるイベントやプログラムのあれこれも、ほとんどが香港住民をターゲットに語られている。この「外国人視点」の不在こそが、観光業不振の最大の政策的欠点であることに、香港政府はいつになったら気付くのだろう?

https://news.yahoo.co.jp/articles/fa1611c4da3e92bec3fe3d57e4c5dbbc4f1e5962?page=1