2023/12/05/ 06:30 dot.オリジナル

 近年、中国人が日本企業でスパイ行為をしたことが露見している。『VIVANT』の公安監修を務めた元公安警察官の勝丸円覚氏は、「留学生や留学経験者を使う理由は、まず日本人から疑われにくいことがある」と語る。ここでは、勝丸円覚氏による最新刊『諜・無法地帯 暗躍するスパイたち』(実業之日本社)から一部を抜粋して紹介する。

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 中国の情報機関の大きな特徴として、留学生を活用する手法が挙げられる。特に最近、これまで以上に留学生をスパイ要員にリクルートする傾向が強まっている。リクルートの対象になっているのは、留学中の学生に始まり、留学経験者や留学後に日本に引き続き滞在している中国人、さらに日本企業に就職をした中国人が狙われる。

 留学生や留学経験者を使う理由は、まず日本人から疑われにくいことがある。また、効率もいい。そんなことが本当にできるのか、と不思議に思う人もいるかもしれない。しかし、現実に起きている。実際に、Bという日本企業から中国側が情報を盗もうとしたことがあり、この時は、B社に在籍している留学生あがりの中国人に声をかけていた。

 留学生でなくとも、もちろんスパイの協力を強いられることがある。留学生に対して行うのと同じような文言でリクルートしてスパイにしていく。そして、一度協力してしまえば、なかなか抜け出せなくなるのが、中国スパイの怖いところだ。相手にはさまざまな個人情報を把握され、会社を裏切ってしまった以上、もう普通の生活には戻れないと脅されるのである。これで怖くなって実際に警察に逃げ込んでくるケースもあり、そういう場合は警察もしっかりと助ける。まず被害者には警護をつけ、その上で実際にスパイを強いている相手に会いに行って、「被害届が出るぞ」と告げれば、相手のスパイは諦めるしかなくなるのだ。

例えば、2020年に発覚した大阪市の大手化学メーカー・積水化学工業が舞台になったスパイ事件では、スマートフォン関連のテクノロジーを、社員が中国企業に漏洩した。結局、この社員は不正競争防止法違反の罪に問われ有罪になっている。このケースでは、中国の省に本社を置く通信機器部品メーカーの潮州三環グループの社員が、SNSのリンクトインで積水化学の社員に接触して企業秘密を送らせていた。しかも、この社員は退職後に別の中国企業に就職したことも判明している。

 これ以外にも、中国人元留学生が絡んだ事件は、日本でいくつか摘発されている。2021年には、人民解放軍の兵士の妻から指示を受けた元留学生に、中国では購入できない、日本製の企業向けウイルス対策ソフトを不正に購入しようとした詐欺未遂容疑で逮捕状が出された。ただこの元留学生はすでに帰国して中国にいたために、日本の警察は逮捕することができなかった。元留学生はさらに、同じ兵士の妻から命じられてUSBメモリを中国に送ったり、日本国外からサイバー攻撃を行うことができるように日本国内のレンタルサーバーに契約していたことも判明している。このレンタルサーバーは後に、三菱電機やIHIなど防衛に関わる企業や、JAXA(宇宙航空研究開発機構)など約200の研究機関や企業の機密情報を狙ったサイバー工作に使われた。

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