12月11日と12日、北京で中央経済工作会議が開かれた。

(略)

習主席の「重要講話」を拝聴する場

 習近平新時代になってから、幹部が集まる重要会議というのは、「皆で話し合う場」ではなく、「習主席の重要講話を拝聴する場」である。この日も、壇上中央の習近平主席が、いつもの仏頂面で「重要講話」を説き始めた。

 すると会場の約200人が、一斉に机上のペンを持ってメモを取る。習主席が「重要講話」を述べる時は、何人たりとも熱心にメモを取らねばならない。これも習近平新時代の掟(おきて)の一つだ。壇上で習主席の脇を固めたナンバー2の李強首相以下、趙楽際、王滬寧、蔡奇、丁薛祥、李希の党常務委員たちも皆、必死の形相でメモを取っている。

 それで偉大なる習主席は、中国経済が超低迷する中、来年に向けて、どんな「お言葉」を下さったのか。CCTVによれば、来年は次の9点に力点を置いた経済政策を実施するのだと力説したという。それらは、以下の通りだ。

@科学技術のイノベーションが牽引する現代化産業システム建設
A国内の需要拡大に着手
B重点分野の改革の深化
Cハイレベルの対外開放の拡大
D重要分野のリスクの持続的かつ有効な防止と軽減
E「三農」(農業・農村・農民)問題をうまく掴む活動をたゆまず堅持
F都市部と農村部の融合、地域の協調発展の推進
G生態文明建設とグリーン低炭素発展の深い推進
H民生の実用的な保障と改善

外国人をたびたびスパイ容疑で捕えながら「ハイレベルの対外開放」とは

 @は、AI(人工知能)を始めとする核心的技術によって、新産業・新モデル・新効能を生み出し、生産力をアップさせよということだ。中国は、アメリカと並ぶAI技術の2大国である。

 だが、先日会った中国のIT企業の幹部は、こんな悩みを吐露していた。「習近平総書記と中国共産党の偉大性をあまねく喧伝してくれるようなChatGPTを開発することは、なかなか難しいよ」

 Aの国内消費の拡大が大事なことはよく分かるが、直近の11月のCPI(全国住民消費価格)は、−0.5%! 中国は消費の沈滞によって、世界でも稀なデフレ社会に突入しているのだ。

 Bは、「習近平総書記と共産党の偉大性」をいささかも動揺させることなく、民営企業の発展を促進せよということだ。まさに魔法使いの出番だ。

 Cのハイレベルの対外開放の拡大は、大いに歓迎すべきことだ。だがその一方で、「国潮」(中国の国粋主義)を煽ったり、外国人をスパイ容疑で捕まえたりしている。いまや中国企業でさえ、中国から脱出を図っているのが現状だ。

実現困難な絵空事ばかりか

 Dは、不動産や地方債務、中小金融機関の危機の問題を言っている。「平急両用」(平時の対策と緊急時の対策の両用)で臨むというが、来年のお手並み拝見である。

 Eについては、今年、「農地をもっと増やせ!」と檄を飛ばし続けた。どうも中国政府には、近未来に世界的な食糧危機が訪れると警戒している節がある。

 Fは、中国に約2.9億人いる「農民工」(農村部から都市部への出稼ぎ労働者)の多くが、都市部で失業して故郷に戻るという現象が顕在化している。ある意味、それによって都市部と農村部の「融合」が進んでいるとも言えるが。

 Gに関しては、7月に全国生態環境保護大会を習近平主席が主催し、「藍天・碧水・浄土の保衛戦」を宣言した。それ自体は大変立派な政策だが、そのとばっちりを受けてか、日本産の水産物と加工品が、「核汚染水」のレッテルを貼られて輸入禁止にされてしまった。

 Hも素晴らしい方針だが、来年7月に卒業予定の大学生・大学院生の数は、過去最高の1179万人! 彼らの就業は、一体どうなってしまうのだろう?

 以上が私の短評だ。念のため、知人の中国人の経済学者に問い合わせたら、もっと単刀直入に告げた。

「要は、空のプールで泳ぎ方を教えているようなものだよ。水がないのに、どうやって泳ぐんだい?」

https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/78398