https://www.sankei.com/resizer/fVCntoVu0AlGZ59FhYY4N0OJKoQ=/1024x628/filters:focal(486x287:496x297):quality(40)/cloudfront-ap-northeast-1.images.arcpublishing.com/sankei/4Z3MC3HMYZMTDD7ITWO6EER6GM.jpg
クロントム市場(別名・泥棒市場)にある海賊版アダルトDVDショップ=タイ・バンコク(一部画像を処理しています)

自転車で香港を出発して8カ月後、私はタイのバンコクに到着した。
水商売のアルバイトと治験で金をため日本を出発したが、口座残高も後わずか。
これ以上先に進むとしても、マレー半島を南下してマレーシアに入国するのが精いっぱいだろう。隣
のミャンマーに行こうとも思ったが、何だか物騒なニュースばかりが続いていて、当時(2016年)は
タイから陸路で入国できないという情報もあったのだ。

バンコクで初めに滞在したのは、「バックパッカーの聖地」と呼ばれる安宿街「カオサン通り」だった。
2~3日は「ここがあのカオサン通りか」という余韻だけでそれなりに楽しむことができたが、
ここには英語もろくに話せないアジア人の居場所はなかった。

欧米人の男というのはなぜあんなに精悍(せいかん)でたくましく、色気があるのだろうか。
もはや生物として劣っている気がしてしまい、私は早々にカオサン通りを出ることにした。

チャオプラヤ川を右手に王宮やワットポー周辺を自転車で周る。当たり前だが、カオサン通りはバンコクのほんの一部だ。
サイアム、シーロム、ナナ、アソーク…。東京23区にいくつもの文化が集まっているように、バンコクにもいろんな性格を持った街が点在している。

大通りから細い路地へ入ると、ひと昔前の秋葉原のようなエリアに入った。ここは「クロントム市場」というマーケットのようで、
別名「泥棒市場」とも呼ばれている。
今でもそうなのかはわからないが、どこからか、くすねてきた盗品が実際に売られていたことから、泥棒市場と言われているみたいだ。

ただ、今でも売っているものは相当怪しい。何に使うのかもわからない電化製品のパーツや、
海賊版のDVD、エアコンのリモコンのみを大量に売っている店もある。

中でも怪しかったのは、アダルトDVDを専門に取り扱っている店だった。
当然、正規品ではなく、無修正の作品を無断でディスクに焼いた海賊版が売られている。
ここまでは大阪の西成区あいりん地区で行われる「朝の闇市」と同じなのだが、並んでいるジャンルがあまりにもキツすぎた。

小学校低学年から高学年とみられる欧米の女児がパッケージに載っているのだ。
内容を切り取ったキャプチャー画像を見てみると、ここには書けないようなことが堂々と行われていた。

私はそのDVDをそっと棚に戻し、一歩後ずさりして店頭をパシャリとカメラに収めた。
すると、店の奥から男が出てきたかと思うと、タイ語でわめき散らしながら私に向かって走ってきた。本当にろくでもない男だ。
一生暗黒街へ堕ちていろ。何が「微笑みの国」だ。そう心の中で悪態をつきながら、必死で逃げた。
■國友公司

2023.12/22 15:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20231222-THND4UWRERIV3AGBQ7QOGLLKAQ/