自民党の政治刷新本部(本部長・岸田文雄首相)を舞台とする党内での権力闘争が激しくなっている。
そこにはルールはなく、「ポスト岸田」をめぐる政治バトルしかない。

岸田首相は13日、政治刷新本部のメンバーについて、「排除の論理は適切ではない」と述べ、安倍派の議員9人を外さなかった。
ところが、政治刷新本部の中間とりまとめ案では、「関係者による明確な説明責任に加え、あるべき政治責任についても結論を得る」
とした。

岸田首相は25日には、「まずは関係者に説明責任を促していくことが第一だ。
その上で、党としても事実関係把握の努力をしていかなければならない」と述べた。

さらに茂木敏充幹事長が、政治資金規正法違反事件で立件対象とならなかった安倍派幹部について、
自発的な離党や議員辞職を求めたという。自ら身を処さない場合、党として厳重な処分を科すことを検討しているというのだ。

安倍派幹部としては、同派座長の塩谷立・元文科相のほか、派閥の事務を取り仕切る事務総長を務める高木毅前国会対策委員長、
松野博一前官房長官ら同派中枢の「5人衆」といった幹部を念頭に置いている。
党則に基づく処分には、党の役職停止、離党勧告、除名などがある。

今国会では安倍派に所属する衆参両院の委員長11人が交代した。
岸田首相は当初、排除の論理はとらないといったが、2週間で方針が様変わりしているようにもみえる。

しかし、派閥の会計責任者が立件されたのは、安倍派、二階派、岸田派だ。
安倍派幹部が政治責任となると、二階俊博元幹事長や岸田首相も同じように政治責任を問われないと平仄(ひょうそく)がとれない。

もともと、安倍晋三元首相の暗殺後、旧統一協会問題を奇貨として安倍派排除に動いたフシもある。
首相としてやりたいことは何かと問われて「人事」と答えた岸田首相は、人事による排除こそ醍醐味(だいごみ)なのだろうか。

岸田首相は、岸田派の解散をテコにやりたい放題だ。しかも、兄弟派閥である麻生派は温存されるので、
岸田派が解散しても「大宏池会」ができるだけで、実害は少ない。
大宏池会が主流派になれば、宏池会議員を多く輩出してきた財務省が喜ぶだけだ。
宏池会は伝統的に親中であり、アジアの安全保障が揺らいでいるときに、中国はさぞかしうれしいだろう。

また、この騒動の最中に、財務省に近く、親中派でもある小渕優子選対委員長が茂木派を離脱した。
小渕氏一人でなく多数を引き連れるのではないか。
このタイミングで動くのは、安倍派幹部の排除と何らかの関係を邪推せざるを得ない。

繰り返すが、岸田首相は13日に「自民党が一致結束して信頼回復のための議論を行うにあたって、
特定の人間を排除するというような排除の論理は適切ではない」と述べた。
実際には正反対のことになるようでは、禍根を残すだろう。政策や選挙の結果であれば納得できるが、このやり方は問題だ。
(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

2024.1/31 06:30
https://www.zakzak.co.jp/article/20240131-BR4WY6KBINLKNIZHOZRPVM3GBE/