電気自動車(EV)の市場にブレーキがかかった。ドイツのメルセデス・ベンツや、米ビッグ3の一部などがEV計画を急減速させた。米IT大手アップルはEVへの新規参入を取りやめた。

私は車が好きで、ハイブリッド(HV)車を愛用している。EVは一つの選択肢だと思う。ただ、「完全EV化」の風潮をみると、先走り過ぎではないかと感じる。

米ウォールストリート・ジャーナル(日本語版)は先月、「2035年までの完全EV化」を掲げる米ゼネラル・モーターズ(GM)が、有力販売店に「顧客を失う」としてHV車導入を迫られていると報じた。米国内の需要を示している。

EVには、充電時間の長さや充電設備の不足、航続可能距離の短さ、割高な価格といった根本的な課題がある。

エコでは電気を絶対視するが、「使用される電気はどこから来るのか」という点を考えてみよう。

日本の資源エネルギー庁の「エネルギー白書2023」によると、21年度の電源構成は、液化天然ガス(LNG)が34・4%、石炭が31・0%と、化石燃料が多くを占めている。「脱炭素」といっても、再生可能エネルギーをEVに利用するインフラが整っていないのだ。

利便性にも課題がある。

近距離の通勤や、近所の買い物に使うのはいいが、遠出のドライブでは、航続距離が気になるうえ、充電に長い時間がかかって不便だ。米国が寒波に襲われた際、充電施設前で長蛇の列となったEVの姿が報じられた。電池は寒さに弱く、放電しやすい。完全EV化が達成されても、運送業などは輸送コストが増えることになりかねない。

こうした現状を直視せず、「信念」のようにEV導入を急ぐのは、ある種のイデオロギーでしかないと思う。

EVの普及は、政府や自治体の補助金に依存する部分が大きい。

欧州自動車工業会によると、ドイツではEV補助金を廃止した昨年12月、EVの販売台数は前年同月比の47・6%とほぼ半減した。

本来、補助金は短・中期的な政策に限られる。補助金を出し続けなければ普及しないようでは終わりも見えない。アンバランスなエネルギー政策といわざるを得ない。

「EV一辺倒」の流れも変わりつつある。

米ニューヨーク・タイムズ(電子版)は9日の記事で、トヨタのHV車を優先する戦略を取り上げた。EV開発に後れをとっているように見え、批判されてきたが、その戦略が「財務面で奏功している」と評価した。

日本企業の戦略が正しかったことを、米メディアが証明したかたちだ。そろそろ、日本のEV補助金も見直す時期に来ているのではないか。

週刊フジ 2024/3/17 17:00
https://www.sankei.com/article/20240317-WHTSQTVLVJB7XERSQBMOSZSC7U/?outputType=theme_weekly-fuji