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国民のレベルに合わせてしまった大統領の失敗

 国民のほとんどは忘れてしまったように思えて仕方がないのだが、2年前までこの国は文在寅政権だった。

 日本から見ても、国際的に見ても、非常に頓珍漢な政権運営だった上に、卵からマンションまで物価上昇が止まらなかった。そして、中国と北朝鮮の機嫌をうかがいながら、アメリカと日本を仮想敵国とするかのような外交を繰り広げていた。

 その暗黒の5年間から脱出するために発足したと言っても過言ではない現政権である。「わたくしがこの国の間違いを正して差しあげます」くらいの、転生系漫画の主人公がやるような政権運営でもよかったのではないだろうか。

 筆者の夫が言うには、「この国では、成功しても失敗しても散々に言われるのだから、自分の信じた道を生きるしかない」のだそうだ。

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従北反日まっしぐら暗黒時代の再来

 今年の3月、医師不足を解消する医療改革案の一つとして、2025年度から医学部の入学定員を2000人増やすと発表した。しかし発表されるや否や、医師たちはストライキを起こし、その騒動はいまだに収まる様子を見せない。

「出生率が0.78の韓国で、その勢いで医師と看護士を増やしたら、20年以内に人口の15%が医療関係者になる。半導体は誰が作るの?」と筆者に言う韓国人医師もいる。

 韓国の医師たちは保守系政党である「国民の力」の支持層だったのだが、今回の騒動で、その支持票は抜けてしまった。

 今回の選挙で一番驚いたのは「タマネギ男」と呼ばれていた元法相の曹国(チョ・グク)氏の復活だった。

 彼は子供の不正入学に絡む罪に問われ、2月3日に懲役2年の実刑が言い渡されたばかりだ。謝罪や反省は全くない。裁判は控訴中であるにもかかわらず、国民に信を問うなどとワケの分からないことを言って、祖国改革新党を結成し、今回の選挙に臨んだ。

 ソウル大学法学部卒業でソウル大の教授だった彼は戦略も見事で、選挙区で候補者は出さずに、比例代表での投票を呼び掛けた。外見もスマートな彼にほだされた有権者は少なくなく、結果、12席もの議席を手に入れた。特に左翼勢力の強い全羅南道の光州では96個の洞(日本の町に該当)のうち90か所で1位の得票率だったという。

 もはや、この国の国民には正常な判断能力は期待できないと見ていいだろう。

 先述したように韓国の大統領は再選できないので、5年任期の後半戦は周囲が言うことを聞かなくなる。そして、次期大統領は誰かという政局や派閥争いが始まるのだ。

 もう、尹大統領にできることはほとんどないのではないか。「次期大統領に一番近い男」李在明が政局を握り、従北反日まっしぐら暗黒時代の再来である。

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 最後に筆者の感想を単刀直入に言おう。「やはりこの国に民主主義はベストではない」ということだ。

 政治家ではなく検事だった尹大統領は、マイペースでいい意味での鈍感さを持っていた。政治的な慣習を知らないふりして好き勝手に独裁モードになっていたほうが、この国にとっても周辺国家にとっても良いことだっただろう。

 千載一遇のチャンスだったのに、野党を選択したのはこの国の国民である。民主主義が多数決である以上、仕方があるまい。

(立花 志音:在韓ライター)
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/80611