齋藤氏:「街を変えていきたい」。——これは僕がライゾマティクスを設立してからずっと
あたためてきた思いです。従来の街づくりではなく、街を「ゆっくりと動いている生物」と
捉えて街を変えていく、それもできるだけオンデマンドに近い形で変えていければと
考えています。テクノロジーの力を借りれば、そのスピードはより早くなるんじゃないかと。

久世CTO:それは、街をテクノロジーで制御するということでしょうか。

齋藤氏:いえ、そうではなく、街に意思をもたせて、自分自身の意思で変えさせていく、
というイメージでしょうか。僕は大学で建築学を専攻し、一度は建築の道を志したんですが、
途中でやめてしまいました。その理由は「建築はスピード感がないから」です。
ニューヨークの建築事務所にいたとき、エレベータの機械室を5cmずらすことになったん
ですが、たった5cm動かすだけでものすごい量の図面書き直し作業が発生して、
気が狂うかと思いました。

レスポンスが遅すぎる建築の世界は自分には向かない、そう考えて、広告の世界に
入ったんです。しかし、学生時代に建築を理論的に考えるモフォロジー
(morphology、変形学)を研究していたことから「もしも建築物が生きていたら
何をするだろうか、もしも街が生きていたら何を話すだろうか」ということを
ずっと考えていたんです。建築を離れてからも、その思いはずっとありました。