「道徳と宗教の二源泉」はアンリ・ベルグソンの最後の著作であるが、彼の哲学の
集大成であり、また人類への励ましの遺言である。

これを執筆していた1930 年頃ベルグソンはフランスのみならず世界の知的最高権
威として認められ、国際連盟の国際知的協力委員会議長をつとめ、またノーベル文学
賞を受賞するなど人生の頂点を極めた。・・・

その時代、人類は民衆を巻き込む悲惨な第1次世界大戦の経験をして、始めて不戦
の思想が現実の力を得て、その具体的な形を目指した国際連盟が生まれた。ベルグソ
ンもその設立に力を与えた。しかし未熟児として生まれた国際連盟は、中心国ですら
批准ができず、その目的達成に絶望感が生まれていた。
まさしくその1930 年代の終わり1939 年には第2次大戦が始まった。ナチスの欧州蹂
躙の果、占領されたパリで、ベルグソンはユダヤ人狩りの恐怖にさらされながら、凍
てつく冬ストーブを温める燃料もなく、肺炎を起して亡くなった。
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「霊性の事実と、したがって霊魂の不滅、死後存続の事実をはじめて実証的な根拠
の上に打ちたてたのはベルクソンだ。
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このように人類社会は当時もっとも混迷の極にあった。当時に比べれば現代は、大
戦がないだけ安定に向かいつつあるようだが、しかしながら、いまだ人間は前途の見
えない混迷の中にある。ベルグソンは、そのような極限の混迷の中で、それを克服す
る人類社会の推進力と、その方向を明らかにしたのである。単にある思想家による希
望の表明といったものではなく、ここに至るまでの人類の叡智、物理学・生物学等の
科学のみならず、思想・哲学・宗教にいたるあらゆる分野で人類が獲得してきた叡智
の真髄を、ベルグソンは学びとった上で、彼の天才的洞察によって、人類の明るい将
来を呼び寄せる行動哲学を示したのである。

ベルグソン紹介第4回
「道徳と宗教の二源泉」が現代に残したもの
野口幹夫
http://kozu5.my.coocan.jp/Bergson2gensen.pdf