New Associationist Movement(NAM)の原理  第二版
柄谷行人
2001/07/01
http://nam21.sak ura.ne.jp/nams/index.html
われわれはアテネの民主主義から学ぶべきことが一つある。アテネの民主主義は、僭主制を
打倒するところから生まれたと同時に、僭主制を二度ともたらさないような周到な工夫によって
成立している。アテネの民主主義を特徴づけるのは議会での全員参加などではなく、行政権力
の制限である。それは官吏をくじ引きで選ぶこと、さらに、同様にくじ引きで選ばれた陪審員に
よる弾劾裁判所によって徹底的にそれを監視したことである。実際、こうした改革を成し遂げた
ペリクレス自身が裁判にかけられて失脚している。要するに、アテネの民主主義において、
権力の固定化を阻止するためにとられたシステムの核心は、選挙ではなくくじ引きにある。
くじ引きは、権力が集中する場に偶然性を導入することであり、そのことによってその固定化を
阻止するものだ。それこそが真に三権分立を保証するものである。かくして、もし匿名投票に
よる普通選挙、つまり議会制民主主義がブルジョワ的な独裁の形式であるとするならば、
くじ引き制こそプロレタリアート独裁の形式だというべきなのである。アソシエーションは中心
をもつが、その中心はくじ引きによって偶然化されている。かくして、中心は在ると同時に無い
といってよい。