伝統的に保守党が強いペンリスでも、16年は離脱支持が53%に達した。そして今、商店や企業の88%が人手不足に陥っている。イギリス人は接客業に就きたがらないからねと、あるバーの店員は語った。ずいぶん前から、こうした低賃金の長時間労働は、出稼ぎ労働者が担っていたのだ。

人手不足に苦しむ店に、燃料費の高騰が追い打ちをかけた。ペンリスにあるメキシコ料理店は昨秋、光熱費が1000%上昇するという見積もりを事業者から受け取った。

過去10年近く国外で仕事をしてきた筆者にとって、母国の衰退ぶりは衝撃的だ。本稿も、カーディガンを重ね着し、毛布にくるまりながら書いている。なにしろ自宅の暖房を数時間入れただけで、10ポンド(約1580円)もするのだ。

物価は高騰しているのに、賃金はほとんど上がらないことに抗議して、鉄道から郵便局、国民保健サービス(NHS)までが代わる代わるストライキをしている。このため救急病棟でさえ、待ち時間が12時間を超えることもある。

交通機関の運賃が大幅に引き上げられたため、ペンリスからバスで40分ほどの大きな町ケズウィックまで買い物に行こうにも、往復24ポンド(約3800円)もかかる。ちなみにイギリスの最低賃金は、1時間10ポンド程度だ。

イギリスを破綻させたのはブレグジットだけではない。だが、過去100年で最悪の生活水準の低下とされるものを目の当たりにすると、ブレグジットが不要だったことは明らかだ。

長期的な影響はさておき、人々は今、より貧しく、より惨めになり、イギリスは世界から孤立している。最悪なのは、イギリスがそれを自ら招いたことだ。