第二次世界大戦中に最もよく読まれた哲学書は、ハイデガーの「存在と時間」では
ないだろうか。兵士が戦場にこの書を持参していたそうだ。なぜかといえば、この
哲学書では死を巡る実存というテーマがあるからであろうし、死を目前とした不安が
実存の本来性を開示する、という究極の存在論が展開されているからであろう

反出生主義もそうした極限の一つを担っていると言えるだろう。この思想は人間存在
だけでなく、生命や自己の感覚がある存在者に全般に対して、苦や害悪を被る可能性が
常にあるがゆえに否を掲げるのであるから。一神教的なパラダイムは、割と出生や存在と
いうものを肯定する方向で支持している感じがあるが、これはやはり、社会的な存続を
当然視した在り方になるのであろうか。為政者や壺であれば、子が増えることで搾取できる
対象者が増えるのだから、それを推奨するのも当然だろう

だが、哲学者はそのように世間的な価値観で考える必要性はないのだ。