ラッセルのパラドックスを始めとする論理学の発展により、私たちは矛盾を含む理論体系をより慎重に扱うことを学びました。単に懐疑論が自己矛盾に陥るからといって、それだけでは現象学的還元の必然性を十分に正当化することはできないかもしれません。
つまり、フッサールの議論の流れを次のようにまとめるなら、

1.懐疑論の徹底は自己矛盾に陥る
2.よって懐疑論は不合理であり、現象学的還元が必要となる

確かに1から2を導くのは論理的に問題があると言えます。懐疑論の矛盾は、必ずしも現象学的還元の必然性を保証しないからです。
むしろ現代の論理学の立場からすれば、懐疑論の矛盾を回避しつつ、認識論的な考察を深めていくことが求められるでしょう。その意味で、フッサールが懐疑論の矛盾から現象学的還元の必然性を直接導いている点は、論理的に見て不十分だと言わざるを得ません。