ピンサロが死んだ! 
この突然もたらされた吉報はあっという間に日本中をいや、世界中を駆け巡った。 
「今日と言う日は人類がこの世に誕生してから、最もめでたい日です。さあ、皆で祝いま 
しょう」 
そして天皇陛下のそんな一声によって始まった盛大なパーティー。 
その歓喜は瞬く間に地球上を覆い尽くし、今や絶頂の極みにあった。 
「本当に死んでくれてホッとしてますわ。あの子を産んでからこの三十年、楽しいと思っ 
た事など一度たりとも無かったんですもの」 
そう喜びの涙を零しながら語ってくれたのはピンサロの母である夕子さん(54)。 
彼女はピンサロを生んだ責任で一時期、牢獄に囚われていた悲しき女性だ。 
だが、もうピンサロはいない。 
彼女の喜びは世界中に伝播し、この地球上に住む有りとあらゆる生き物に感動を与えたと 
言っても過言ではないだろう。 
「もう、最高よ!こんな楽しい事があるのなら頑張って生き続けようと思うわ」 
そう笑顔を浮かべながら語るのはワシントン州精神心理学付属病院に通院しているナンシーさん(32)。 
彼女は幾度と無く自殺未遂を繰り返していたがこの一件で生きる希望を見出したという。 
「良くは分からないけど、とても嬉しいです。何かこう、力が湧いて来ました」 
ベトナム難民の一人であるベス君(10)もはにかんだ表情を浮かべながら我々にそう語 
ってくれた。 
そして夜がふけても行なわれる盛大なパーティー。
 それは地球上の有りとあらゆる場所で行なわれ、我々人類に、いや生けとし生けるものに 
明日を生き抜く力を与える。 
我々はその光景を人類始まって以来の奇跡だと確信し、ワイングラスで乾杯する。 
この喜びが未来永劫続きますように。 
ちっぽけな存在である我々はそう願う事しか出来ないのだから。