歌舞伎の世話物だと、たとえば菜っ葉を切る芝居がそれだけだったら、いけないんです。
「あ、いかにもその人間だ」というディテールの描出がなければ。
二十歳のころ知った大向こうの掛け声に、「こまかい!」っていうのがあった。
芝翫が「野崎村」のお光を演じていたときに聞いたんだけれど、なんてすてきな言葉だろうと思った。
そういうのがないと、小説とはいえないでしょう、というのが私のなかにはある。

http://www.shinchosha.co.jp/nami/tachiyomi/20090827_01.html