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■錚々たる顔ぶれの『寿曽我対面』

2015年に、59歳の若さで惜しまれつつ逝去した三津五郎。在りし日の姿が、舞台に立つ巳之助と重なってみえた経験を持つ方は多いだろう。

「似てきたと言われる時、大抵は見た目の話ですよね。父がいた頃はムズムズするような居心地の悪さがありましたが、今では『そうでしょうね、親子だからね』と思うくらいです(笑)。
ただ、役者の先輩に『似てきた』と言っていただけた時は嬉しいです。役者が役者に言うことならば、見た目だけでなく、ほんの何%かでも『芸が似てきた』の意味が含まれていると思えます」

巳之助が勤める曽我五郎は、三津五郎が襲名披露興行で勤めた役でもある。
11月の歌舞伎座の配役は、工藤祐経に尾上菊五郎、曽我十郎に中村時蔵、小林朝比奈に尾上松緑、大磯の虎に中村雀右衛門、鬼王新左衛門に市川左團次。

「菊五郎さんがお考えくださいました。これほどの先輩方にお揃いいただけることとなり、本当にありがたく思います。
初役ですので、松緑のおにいさんに教わります。追善狂言だからと出演をご快諾くださった皆さんの、父へ思いを感じ、そして父のおかげと感じ、感謝しています。ただただ、ありがたいことです」

三津五郎の五郎について訊くと、「お手本のような五郎でした。格好良かったです」と振り返る。

■曽我兄弟の仇討ちの物語

『寿曽我対面』は、『曽我物語』から一場面を切り出したもの。

「このお芝居では、どの人物にも、それぞれ歌舞伎の象徴的な要素が詰まっています。過去には、小林朝比奈と化粧坂少将をやらせていただきましたが、役者としては、どのお役からも学ぶことがあります。
曽我五郎はお芝居や舞踊など様々な演目に登場しますが、『対面』の五郎は、歌舞伎をあまりご存知ない方が歌舞伎と聞いて、まず想像されるような、むき身と呼ばれる隈取をして登場する、血気盛んな若者のお役です」