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『曽我物語』は、曽我兄弟の仇討ちのお話だ。「日本三大仇討ち」に数えられる題材だが、今では、誰もが知る話とはいいがたく、
この場面だけで物語を把握することはむずかしい。初めてご覧になる方は、観劇前に予習するべきだろうか。

「どちらでも良いと思います。見取狂言として(一場面が独立して)上演され続けてきたのは、この場面に見どころがあり、ここだけを見ても面白いと感じる人が大勢いた時代があったからだと思うんです。
歌舞伎の様式美や、儀式のような厳かな雰囲気、そこに朝比奈のような道化役が出てきたりもします。台詞回しの音楽性、幕切れの決まりまで、感覚的にも十分楽しんでいただける作品だと思います」

「ただし、分からないもの=つまらない、と感じやすい方は、予習いただくと良いのでしょうね。歌舞伎に限らず、最近は分かりやすいものが好まれます。
TikTokのように短時間に面白いことが詰まったものが流行り、YouTubeでは20分を超えると視聴数が落ちるそうです。
そんな時代に歌舞伎は、ひとつの場面に1、2時間かけることもあります。時代的に逆行する部分はありますが、そこに歌舞伎の魅力があるとも思えます」


■僕からは教えませんよ

役作りについては、あまり深く語らない。理由を問うと「現代劇や新作歌舞伎ならば答えやすいのですが、古典の役だと困ってしまう」と言った。

「歌舞伎役者は皆、先輩方に教えていただき、稽古をして吸収しようと努めます。先輩方が身につけ、脈々と受け継いでこられた役者にとっての財産を、僕が容易く言葉にして広めることに抵抗を感じるんです」