(私の選択)博多座で全てが始まった 南座副支配人・武冨陽子さん 41歳:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/DA3S14926074.html
2021/6/2 16:30
 ■Hi sista with you
 ■歌舞伎が変えた、我が人生

 博多座のいすに腰を下ろした瞬間が、全ての始まりだった。2001年6月。大学3年生だった。
 博多座でアルバイトをする知人に誘われ、歌舞伎を見た。劇場の雰囲気も舞台セットも覚えていない。ただ、花道に立った歌舞伎役者の美しさだけは思い出せる。気迫と色気に「ハッとした」ことも。

 法学部だった。法曹界に進むか、公務員になろうか。ぼんやり考えていた。だけど、どうしても忘れられない。その年の秋、博多座でバイトを始めた。
 周りは、だんだんと就職活動一色に。自分も始めてはみたものの、思うようにいかない。
そんなとき、博多座で「ラ・マンチャの男」を見た。松本幸四郎(現・白鸚〈はくおう〉)さんが放った一言に胸をつかれた。
 「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に折り合いをつけて、あるべき姿のために闘わないことだ」
 就活をやめ、大学院に進もうか。そう考え始めた自分を見透かされたようだった。好きなことを仕事にしよう。思い直し、松竹の内定を得ることができた。

 入社して3年目。東京・新橋演舞場の「監事室」に配属された。芝居を見て、大道具がゆがんでいないか、幕がきちんと下りているかなどをチェックする。舞台の質を維持する仕事だ。
 直したいところがあると、裏方にお願いしにいく。だが、相手はその道のベテラン。「直せねえ」と突っぱねられることもしばしばだった。
毎日、控室に顔を出して雑談した。次第に打ち解け、意見を採り入れられるようになった。