物語のあらすじ

主な舞台のグルジア。そのお隣の小アジア半島の東ローマ帝国は、十字軍のせいで、いくつかの諸侯領に分割され、東ローマの系譜を引くトレビゾンド帝国が小アジア半島の北部に張り付くように、細長い領地を持つ。既に南部にはルーム・セルジューク朝トルコがアナトリアを領とている、西のキリスト教圏と南東部のイスラーム勢力がそれぞれの宗教圏内で争ったり、その枠を越えて婚姻関係を結んで同盟しようとたり、情勢が不安定な時代のユーラシア中央部のグルジアの話。

グルジアの王女だったルスダンは、政治的な教育や実績のないまま、突然の蒙古襲来を迎え撃った兄ギオルギ王の亡き後、グルジア女王として即位します。長年、セルジューク朝の王族・エルゼルム公の第四子で、グルジアに人質に出されていた、幼馴染みで、キリスト教徒になっていたディミトリを王配に、結婚して、国の建て直しにかかります。

モンゴルへの迎撃や、去ったモンゴルの後にやって来たイスラーム勢力の亡きホラズム朝の後継者のジャラルッディーンの軍に対抗する中で、グルジア軍の指揮官たちも一枚岩ではなく、それがグルジアをますます傾けていく状況になっていきます。ルスダンにとって、二代前の母親で、女神ともいうべきグルジアの最盛期を自ら作り出したタマル女王の威光が、為政者としての娘にプレッシャーとなって、のしかかります。

更に、夫のディミトリが母国イスラーム勢力のセルジューク朝から帰還を促され、そのやり取りで女王と子供たちを守ろうとした動きが、ジャラルッディーン側に情報を流しているんじゃないかという疑惑と裏付けに繋げられます。ルスダンはショックで不義をおかします。

ディミトリの立ち位置は、結婚から国内に火種を抱えたものでしたが、ラストでは元ホラズムの勢力に渡ったディミトリの健気な努力で、ルスダンはジャラルッディーンに、首都トリビシ奪還で、一矢、報います。

グルジアへの密通をジャラルッディーンの書記官ナサウィーに見つかり、その場で服毒していたのが効いて、亡くなります。出だしのルスダンと臣下とのやり取りも、終わりのトリビシの王宮庭園を歩くルスダンが遭遇した夫の亡霊の気配を感じたシーンも、ただただ、グルジアの哀しい歴史の数行に過ぎないのかもしれません。その前に、この小説は歴史を下敷きにしたフィクションです。