>>903

書き進めていくと、「愛称」という欄にぶち当たった。

「愛称(ニックネーム)」は、タカラジェンヌをより身近に呼ぶ事のできる、伝統ある風習である。

芸名にちなむ人、または本名にちなむ人。自らが「こう呼んでほしい」と指定する場合や、宝塚音楽学校時代から呼ばれていた愛称を書いたり、凄い人だと生まれたときから「こう呼ばれていた」と、ありのままに書くことも。兎にも角にも人それぞれに記載されている。

私の場合、もともと同期からは本名にちなんで「うめちゃん」と呼ばれており、そのまま記入しようと思ったのだが、ここである問題が浮上した。

上級生の方と愛称が「被っていた」のである。

愛称は、同期だけではなく、演出・振付の先生方、そしてファンの方々全員が呼んでくれるもの。

それが被ってしまうと、今後お稽古場でその方とご一緒した際、「うん?今どっちを呼ぼうとしたの?」とややこしい事になってしまう。

なので、できるだけ被らない方が良い。

私はここにきて急遽愛称を変える必要があった。

同期と緊急会議をした結果、「うめちゃん」の「うめ」はアイデンティティとして残し、「ちゃん」の部分を変えようということになった。

すると同期の中原由貴が、「超おすすめな敬称があるの!」と、目をキラキラさせながら提案してきた。

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それは……「タン」だった。

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「タン」は、当時アイドルや二次元のキャラなどに多く使われる敬称だった。

中原は、「これならだれとも被らないでしょ!」と目をキラキラさせながらおススメしてくる。確かに。今後も誰とも被らないだろう。

「しかも、タンは、ネットではタソって記載するのが流行ってるらしいよ!」

と、中原はさらにキラキラした目で続けた。

今思えば、なぜその時ネットのトレンドを中原が知っていたのかはわからないが、「誰とも被らなくて今流行っている」という言葉に猛烈に惹かれた私は、「超いいじゃん! そうしよ!」と彼女の意見をまるまる採用した。