Xさんは、面談を受けた多くの劇団員が、
「終わった後に『あぜんとすると同時に、ずっといじめやパワハラを隠し通すつもりなんだろう』て話していました」
と語った。
 
 調査を担当したのは、大阪の大手弁護士事務所だ。当初は、宝塚歌劇団やその親会社の阪急阪神ホールディングスとは関係がない「中立」であるとされていた。

 しかし、所属している弁護士が、阪急阪神百貨店の持ち株会社「エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリング」の取締役監査等委員であることがわかった。

 Xさんが語るように、調査した弁護士にも信頼性や中立性といった点で疑問を抱かざるを得ないのだ。



 世の中からみれば非常識

 Xさんの母親は、

「娘が憧れて入った宝塚歌劇団ですが、軍隊を思わせるこんなひどい組織があるのかと、ただ驚いたのが正直なところです。Aさんがお亡くなりになって、立ち直るというか普通の組織になるチャンスは今しかないです」

 と話し、こう続けた。

「睡眠時間がほとんどない状態でふらふらになって稽古をするのは当たり前で、罵声、暴言、ときにはたたかれながらというのも日常茶飯事と聞いています。先輩から目をつけられ、徹底的にいじめられた劇団員がいて、精神的に参って数年前に辞めていきました。その子も自殺未遂に及んだことがあるそうです」

 母親によると、劇団側の対応が「あまりにひどい」として劇団員の親同士で連絡を取り合い、弁護士を立てて交渉できないか相談もしているという。

「日曜日が休日なので、前日に私が近くにホテルをとってそこに娘がやってきます。普段、稽古でお風呂に入る暇もないくらいなので、何度も入浴して、ご飯を食べた後は爆睡です。あまりに過酷な日々を過ごしているので、親が宝塚に引っ越してきて面倒を見るという劇団員の家もあります。劇団では当たり前ですが、世の中からみれば非常識。それを放置してきた劇団には、Aさんが亡くなった責任の一端があるはずです」(Xさんの母)

 一方、宝塚歌劇団では外部専門家による新しい調査委員会を設置して、劇団員全員に事情を聞いていくとの方針を打ち出した。
私たちと劇団、どっちがまともなのか

 Xさんは、
「多くの劇団員は、調査報告書の調査のやり方や内容などを信用していません。人が亡くなっているのに、『責任がない』『劇団を守るために』って通じることですか。何も解明されていないのに、劇団員から出る意見や批判を押さえつけて、表向きは調査して公演を始めるなんて、また同じことが起きます。私たちと劇団、どっちがまともなのか、閉ざされた世界なのでここにいるとわけがわからなくなります」
 と感情をあらわに話しており、混乱している様子が伝わってくる。

 コンプライアンスに詳しい元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士は、
「今回の調査報告書は、内容を見ると内部調査です。しかし、独立した第三者委員会の提言のようなことも書いているので、信頼性に疑問を呈する声が出てくるのではないでしょうか。劇団側は独立性を担保した第三者委を早急に立ち上げるべきです。ジャニーズ事務所も1回目の記者会見で大失敗しました。宝塚も“二の舞い”になりかねないです」
 と警鐘を鳴らしている。