牧太郎の大きな声では言えないが…:「自己責任」の時代
毎日新聞 2013年01月15日 東京夕刊
http://mainichi.jp/opinion/news/20130115dde012070003000c.html

正月、1年ぶりに会った長男が堂々とたばこをふかしている。( ´Д`)y━・~~
「40過ぎて、たばこを吸っているなんて非常識な……やめろ!」と命令した。
せがれの生活には、それほど興味はないが……たばこは受動喫煙で周りに
迷惑を掛ける。 「俺のように、1日に50本以上も吸うヘビースモーカーは、
吸わない人の15倍以上の確率で肺がんで死ぬ。だから、やめたんだ」
二十数年前、脳卒中で倒れた時、主治医から「たばこか、酒か、どちらか
やめたら」と忠告され禁煙を選んだ。 「でも、がんは2人に1人の時代だよ。
たばこだけが悪ではない」と長男は不服そうだ。 確かに……80%を超えて
いた男性の喫煙率は今や約30%。肺がんの死亡者は少なくなるはずだが…
…厚生労働省の「人口動態統計」によると、1950年に肺がんで死んだ人は
1100人。60年後では約7万人である。がん患者を正確に把握することが
できるようになり、患者数が多くなったとしても、「肺がん発症率の変化は
喫煙率の変化の20?30年後」という“潜伏期間の存在”を考慮しても……
「たばこが肺がんの主たる原因!」というのには、首をかしげる人もいる。
(゚Д゚)?
愛煙家のお医者さんはたばこを吸うと脳のドーパミンやセロトニンの分泌が
良くなり、イライラしなくなると主張する。たばこを吸う人は自殺しない、という
“説”まであるそうだ。 「たばこは悪!」は動かし難い常識だとは思うが……
悪は悪でも“主犯”ではなく“従犯”ではあるまいか? がんは治療のやり方にも、
迷うことが多々ある。 「がんは放っておけば転移する。予防には早期発見、
早期治療。治療には手術が確実。抗がん剤も使う」というのが常識。だが、
慶応大学医学部放射線治療科講師、近藤誠さん(第60回菊池寛賞受賞)は
「放置するのが好ましい」と主張する。 がんばかりではない。あらゆるテーマで
「常識」に真正面から反対する意見が出てきた。そして、人々は迷う。
何事にも、自分の「物差し」で判断しなければならない。自己責任が求められる時代。
「やめろ!」と叱るオヤジ。「やめない!」と頑張るせがれ。その結末は? 
来年の新年会が見ものである。(専門編集委員)