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煙草にアンパンマンを印刷したら喫煙率下がるだろ [無断転載禁止]©2ch.net
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0001774mgさん
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2016/03/27(日) 19:38:41.61ID:oq1nxI/1
なんでやらないのか謎
0101774mgさん
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2018/03/11(日) 02:21:53.44ID:uwhjXa2E
そんな事はなぜかわかつてゐた。
0102774mgさん
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2018/03/11(日) 02:22:09.26ID:uwhjXa2E
顔のせゐか、言葉のせゐか、それとも持つてゐた短銃のせゐか、兎に角わかつてはゐたのだつた。
0103774mgさん
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2018/03/11(日) 02:22:25.07ID:uwhjXa2E
お富は眉も動かさずに、ぢつと新公の顔を眺めた。
0104774mgさん
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2018/03/11(日) 02:22:40.72ID:uwhjXa2E
新公も故意か偶然か、彼女の顔を見守つてゐた。
0105774mgさん
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2018/03/11(日) 02:22:56.48ID:uwhjXa2E
二十年以前の雨の日の記憶は、この瞬間お富の心に、切ない程はつきり浮んで来た。
0106774mgさん
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2018/03/11(日) 02:23:12.25ID:uwhjXa2E
彼女はあの日無分別にも、一匹の猫を救ふ為に、新公に体を任さうとした。
0107774mgさん
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2018/03/11(日) 02:23:27.90ID:uwhjXa2E
その動機は何だつたか、――
0108774mgさん
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2018/03/11(日) 02:23:43.64ID:uwhjXa2E
彼女はそれを知らなかつた。
0109774mgさん
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2018/03/11(日) 02:23:59.43ID:uwhjXa2E
新公は亦さう云ふ羽目にも、彼女が投げ出した体には、指さへ触れる事を肯じなかつた。
0110774mgさん
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2018/03/11(日) 02:24:15.19ID:uwhjXa2E
その動機は何だつたか、――
0111774mgさん
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2018/03/11(日) 02:24:30.84ID:uwhjXa2E
それも彼女は知らなかつた。
0112774mgさん
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2018/03/11(日) 02:24:46.62ID:uwhjXa2E
が、知らないのにも関らず、それらは皆お富には、当然すぎる程当然だつた。
0113774mgさん
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2018/03/11(日) 02:25:02.40ID:uwhjXa2E
彼女は馬車とすれ違ひながら、何か心の伸びるやうな気がした。
0114774mgさん
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2018/03/11(日) 02:25:18.19ID:uwhjXa2E
新公の馬車の通り過ぎた時、夫は人ごみの間から、又お富を振り返つた。
0115774mgさん
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2018/03/11(日) 02:25:34.26ID:uwhjXa2E
彼女はやはりその顔を見ると、何事もないやうに頬笑んで見せた。
0116774mgさん
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2018/03/11(日) 02:25:49.92ID:uwhjXa2E
活き活きと、嬉しさうに。……
0117774mgさん
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2018/03/11(日) 02:26:05.72ID:uwhjXa2E
彼は或町の裏に年下の彼女と鬼ごつこをしてゐた。
0118774mgさん
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2018/03/11(日) 02:26:21.65ID:uwhjXa2E
まだあたりは明るいものの、丁度町角の街燈には瓦斯のともる時分だつた。
0119774mgさん
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2018/03/11(日) 02:26:37.42ID:uwhjXa2E
彼は楽々と逃げながら、鬼になつて来る彼女を振りかへつた。
0120774mgさん
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2018/03/11(日) 02:26:53.08ID:uwhjXa2E
彼女は彼を見つめたまま、一生懸命に追ひかけて来た。
0121774mgさん
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2018/03/11(日) 02:27:08.86ID:uwhjXa2E
彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
0122774mgさん
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2018/03/11(日) 02:27:24.64ID:uwhjXa2E
その顔は可也長い間、彼の心に残つてゐた。
0123774mgさん
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2018/03/11(日) 02:27:40.40ID:uwhjXa2E
が、年月の流れるのにつれ、いつかすつかり消えてしまつた。
0124774mgさん
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2018/03/11(日) 02:27:56.18ID:uwhjXa2E
それから二十年ばかりたつた後、彼は雪国の汽車の中に偶然、彼女とめぐり合つた。
0125774mgさん
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2018/03/11(日) 02:28:11.95ID:uwhjXa2E
窓の外が暗くなるのにつれ、沾めつた靴や外套のひが急に身にしみる時分だつた。
0126774mgさん
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2018/03/11(日) 02:28:27.71ID:uwhjXa2E
彼は巻煙草を銜へながら、(それは彼が同志と一しよに刑務所を出た三日目だつた。)ふと彼女の顔へ目を注いだ。
0127774mgさん
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2018/03/11(日) 02:28:43.48ID:uwhjXa2E
近頃夫を失つた彼女は熱心に彼女の両親や兄弟のことを話してゐた。
0128774mgさん
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2018/03/11(日) 02:28:59.27ID:uwhjXa2E
彼はその顔を眺めた時、妙に真剣な顔をしてゐるなと思つた。
0129774mgさん
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2018/03/11(日) 02:29:15.03ID:uwhjXa2E
と同時にいつの間にか十二歳の少年の心になつてゐた。
0130774mgさん
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2018/03/11(日) 02:29:30.67ID:uwhjXa2E
彼等は今は結婚して或郊外に家を持つてゐる。
0131774mgさん
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2018/03/11(日) 02:29:46.45ID:uwhjXa2E
が、彼はその時以来、妙に真剣な彼女の顔を一度も目のあたりに見たことはなかつた。
0132774mgさん
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2018/03/11(日) 02:30:02.23ID:uwhjXa2E
雨降りの午後、今年中学を卒業した洋一は、二階の机に背を円くしながら、北原白秋風の歌を作っていた。
0133774mgさん
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2018/03/11(日) 02:30:18.16ID:uwhjXa2E
すると「おい」と云う父の声が、突然彼の耳を驚かした。
0134774mgさん
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2018/03/11(日) 02:30:33.82ID:uwhjXa2E
彼は倉皇と振り返る暇にも、ちょうどそこにあった辞書の下に、歌稿を隠す事を忘れなかった。
0135774mgさん
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2018/03/11(日) 02:30:49.48ID:uwhjXa2E
が、幸い父の賢造は、夏外套をひっかけたまま、うす暗い梯子の上り口へ胸まで覗かせているだけだった。
0136774mgさん
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2018/03/11(日) 02:31:05.13ID:uwhjXa2E
「どうもお律の容態が思わしくないから、慎太郎の所へ電報を打ってくれ。」
0137774mgさん
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2018/03/11(日) 02:31:20.91ID:uwhjXa2E
洋一は思わず大きな声を出した。
0138774mgさん
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2018/03/11(日) 02:31:36.70ID:uwhjXa2E
「まあ、ふだんが達者だから、急にどうと云う事もあるまいがね、――
0139774mgさん
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2018/03/11(日) 02:31:52.53ID:uwhjXa2E
慎太郎へだけ知らせた方が――」
0140774mgさん
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2018/03/11(日) 02:32:08.31ID:uwhjXa2E
洋一は父の言葉を奪った。
0141774mgさん
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2018/03/11(日) 02:32:24.07ID:uwhjXa2E
「戸沢さんは何だって云うんです?」
0142774mgさん
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2018/03/11(日) 02:32:39.83ID:uwhjXa2E
「やっぱり十二指腸の潰瘍だそうだ。――
0143774mgさん
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2018/03/11(日) 02:32:55.57ID:uwhjXa2E
心配はなかろうって云うんだが。」
0144774mgさん
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2018/03/11(日) 02:33:11.41ID:uwhjXa2E
賢造は妙に洋一と、視線の合う事を避けたいらしかった。
0145774mgさん
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2018/03/11(日) 02:33:27.17ID:uwhjXa2E
「しかしあしたは谷村博士に来て貰うように頼んで置いた。
0146774mgさん
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2018/03/11(日) 02:33:42.91ID:uwhjXa2E
戸沢さんもそう云うから、――
0147774mgさん
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2018/03/11(日) 02:33:58.70ID:uwhjXa2E
じゃ慎太郎の所を頼んだよ。
0148774mgさん
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2018/03/11(日) 02:34:14.44ID:uwhjXa2E
宿所はお前が知っているね。」
0149774mgさん
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2018/03/11(日) 02:34:30.21ID:uwhjXa2E
「ええ、知っています。――
0150774mgさん
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2018/03/11(日) 02:34:45.85ID:uwhjXa2E
お父さんはどこかへ行くの?」
0151774mgさん
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2018/03/11(日) 02:35:01.62ID:uwhjXa2E
「ちょいと銀行へ行って来る。――
0152774mgさん
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2018/03/11(日) 02:35:17.37ID:uwhjXa2E
ああ、下に浅川の叔母さんが来ているぜ。」
0153774mgさん
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2018/03/11(日) 02:35:33.03ID:uwhjXa2E
賢造の姿が隠れると、洋一には外の雨の音が、急に高くなったような心もちがした。
0154774mgさん
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2018/03/11(日) 02:35:48.67ID:uwhjXa2E
愚図愚図している場合じゃない――
0155774mgさん
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2018/03/11(日) 02:36:04.44ID:uwhjXa2E
そんな事もはっきり感じられた。
0156774mgさん
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2018/03/11(日) 02:36:20.64ID:uwhjXa2E
彼はすぐに立ち上ると、真鍮の手すりに手を触れながら、どしどし梯子を下りて行った。
0157774mgさん
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2018/03/11(日) 02:36:36.40ID:uwhjXa2E
まっすぐに梯子を下りた所が、ぎっしり右左の棚の上に、メリヤス類のボオル箱を並べた、手広い店になっている。――
0158774mgさん
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2018/03/11(日) 02:36:52.55ID:uwhjXa2E
その店先の雨明りの中に、パナマ帽をかぶった賢造は、こちらへ後を向けたまま、もう入口に直した足駄へ、片足下している所だった。
0159774mgさん
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2018/03/11(日) 02:37:08.51ID:uwhjXa2E
今日あちらへ御見えになりますか、伺ってくれろと申すんですが………」
0160774mgさん
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2018/03/11(日) 02:37:24.25ID:uwhjXa2E
洋一が店へ来ると同時に、電話に向っていた店員が、こう賢造の方へ声をかけた。
0161774mgさん
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2018/03/11(日) 02:37:40.00ID:uwhjXa2E
店員はほかにも四五人、金庫の前や神棚の下に、主人を送り出すと云うよりは、むしろ主人の出て行くのを待ちでもするような顔をしていた。
0162774mgさん
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2018/03/11(日) 02:37:55.79ID:uwhjXa2E
あした行きますってそう云ってくれ。」
0163774mgさん
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2018/03/11(日) 02:38:11.56ID:uwhjXa2E
電話の切れるのが合図だったように、賢造は大きな洋傘を開くと、さっさと往来へ歩き出した。
0164774mgさん
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2018/03/11(日) 02:38:27.22ID:uwhjXa2E
その姿がちょいとの間、浅く泥を刷いたアスファルトの上に、かすかな影を落して行くのが見えた。
0165774mgさん
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2018/03/11(日) 02:38:42.96ID:uwhjXa2E
「神山さんはいないのかい?」
0166774mgさん
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2018/03/11(日) 02:38:58.74ID:uwhjXa2E
洋一は帳場机に坐りながら、店員の一人の顔を見上げた。
0167774mgさん
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2018/03/11(日) 02:39:14.53ID:uwhjXa2E
「さっき、何だか奥の使いに行きました。――
0168774mgさん
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2018/03/11(日) 02:39:30.18ID:uwhjXa2E
どこだか知らないかい?」
0169774mgさん
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2018/03/11(日) 02:39:45.97ID:uwhjXa2E
I don't know ですな。」
0170774mgさん
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2018/03/11(日) 02:40:01.61ID:uwhjXa2E
そう答えた店員は、上り框にしゃがんだまま、あとは口笛を鳴らし始めた。
0171774mgさん
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2018/03/11(日) 02:40:17.35ID:uwhjXa2E
その間に洋一は、そこにあった頼信紙へ、せっせと万年筆を動かしていた。
0172774mgさん
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2018/03/11(日) 02:40:33.12ID:uwhjXa2E
ある地方の高等学校へ、去年の秋入学した兄、――
0173774mgさん
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2018/03/11(日) 02:40:48.88ID:uwhjXa2E
彼よりも色の黒い、彼よりも肥った兄の顔が、彼には今も頭のどこかに、ありあり浮んで見えるような気がした。
0174774mgさん
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2018/03/11(日) 02:41:04.64ID:uwhjXa2E
「ハハワルシ、スグカエレ」――
0175774mgさん
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2018/03/11(日) 02:41:20.40ID:uwhjXa2E
彼は始こう書いたが、すぐにまた紙を裂いて、「ハハビョウキ、スグカエレ」と書き直した。
0176774mgさん
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2018/03/11(日) 02:41:36.06ID:uwhjXa2E
それでも「ワルシ」と書いた事が、何か不吉な前兆のように、頭にこびりついて離れなかった。
0177774mgさん
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2018/03/11(日) 02:41:51.91ID:uwhjXa2E
「おい、ちょいとこれを打って来てくれないか?」
0178774mgさん
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2018/03/11(日) 02:42:07.55ID:uwhjXa2E
やっと書き上げた電報を店員の一人に渡した後、洋一は書き損じた紙を噛み噛み、店の後にある台所へ抜けて、晴れた日も薄暗い茶の間へ行った。
0179774mgさん
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2018/03/11(日) 02:42:23.17ID:uwhjXa2E
茶の間には長火鉢の上の柱に、ある毛糸屋の広告を兼ねた、大きな日暦が懸っている。――
0180774mgさん
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2018/03/11(日) 02:42:38.82ID:uwhjXa2E
そこに髪を切った浅川の叔母が、しきりと耳掻きを使いながら、忘れられたように坐っていた。
0181774mgさん
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2018/03/11(日) 02:42:54.60ID:uwhjXa2E
それが洋一の足音を聞くと、やはり耳掻きを当てがったまま、始終爛れている眼を擡げた。
0182774mgさん
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2018/03/11(日) 02:43:10.33ID:uwhjXa2E
お父さんはもうお出かけかえ?」
0183774mgさん
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2018/03/11(日) 02:43:26.05ID:uwhjXa2E
お母さんにも困りましたね。」
0184774mgさん
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2018/03/11(日) 02:43:41.80ID:uwhjXa2E
「困ったねえ、私は何も名のつくような病気じゃないと思っていたんだよ。」
0185774mgさん
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2018/03/11(日) 02:43:57.55ID:uwhjXa2E
洋一は長火鉢の向うに、いやいや落着かない膝を据えた。
0186774mgさん
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2018/03/11(日) 02:44:13.34ID:uwhjXa2E
襖一つ隔てた向うには、大病の母が横になっている。――
0187774mgさん
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2018/03/11(日) 02:44:29.10ID:uwhjXa2E
そう云う意識がいつもよりも、一層この昔風な老人の相手を苛立たしいものにさせるのだった。
0188774mgさん
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2018/03/11(日) 02:44:44.89ID:uwhjXa2E
叔母はしばらく黙っていたが、やがて額で彼を見ながら、
0189774mgさん
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2018/03/11(日) 02:45:00.53ID:uwhjXa2E
「お絹ちゃんが今来るとさ。」と云った。
0190774mgさん
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2018/03/11(日) 02:45:16.32ID:uwhjXa2E
「姉さんはまだ病気じゃないの?」
0191774mgさん
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2018/03/11(日) 02:45:32.09ID:uwhjXa2E
「もう今日は好いんだとさ。
0192774mgさん
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2018/03/11(日) 02:45:47.78ID:uwhjXa2E
何、またいつもの鼻っ風邪だったんだよ。」
0193774mgさん
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2018/03/11(日) 02:46:03.57ID:uwhjXa2E
浅川の叔母の言葉には、軽い侮蔑を帯びた中に、反って親しそうな調子があった。
0194774mgさん
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2018/03/11(日) 02:46:19.35ID:uwhjXa2E
三人きょうだいがある内でも、お律の腹を痛めないお絹が、一番叔母には気に入りらしい。
0195774mgさん
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2018/03/11(日) 02:46:35.01ID:uwhjXa2E
それには賢造の先妻が、叔母の身内だと云う理由もある。――
0196774mgさん
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2018/03/11(日) 02:46:50.65ID:uwhjXa2E
洋一は誰かに聞かされた、そんな話を思い出しながら、しばらくの間は不承不承に、一昨年ある呉服屋へ縁づいた、病気勝ちな姉の噂をしていた。
0197774mgさん
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2018/03/11(日) 02:47:06.33ID:uwhjXa2E
「慎ちゃんの所はどうおしだえ?
0198774mgさん
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2018/03/11(日) 02:47:22.02ID:uwhjXa2E
お父さんは知らせた方が好いとか云ってお出でだったけれど。」
0199774mgさん
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2018/03/11(日) 02:47:37.76ID:uwhjXa2E
その噂が一段落着いた時、叔母は耳掻きの手をやめると、思い出したようにこう云った。
0200774mgさん
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2018/03/11(日) 02:47:53.43ID:uwhjXa2E
「今、電報を打たせました。
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