>>17
なあ、お前と葉巻呑むときはいつもビリガーエクスポートだな。
一番最初、お前と呑んだときからそうだったよな。
俺が貧乏浪人生で、お前が月20万稼ぐフリーターだったとき、
おごってもらったのがビリガーエクスポートだったな。
「俺は、毎晩こういう葉巻を吸ってるんだぜ。金が余ってしょーがねーから」
お前はそういって笑ってたっけな。

俺が大学出て入社して初任給22万だったとき、
お前は月30万稼ぐんだって胸を張っていたよな。
「毎晩残業で休みもないけど、金がすごいんだ」
「バイトの後輩どもにこうして奢ってやって、言うこと聞かせるんだ」
「社長の息子も、バイトまとめている俺に頭上がらないんだぜ」
そういうことを目を輝かせて語りながら呑んでたのも、ビリガーエクスポートだったな。

あれから十年たって今、こうして、たまにお前と呑む時もやっぱりビリガーエクスポートだ。
ここ何年か、こういうドライシガーを呑むのはお前と一緒のときだけだ。
別にドライシガーが悪いというわけじゃないが、この銘柄は紙を燃やしたようなにおいがする。
ドローはスカスカ、どこまでも単調で平坦な味。クラブサイズのハバノスを吸ったほうがいい気がしてならない。
なあ、別にタリスマンでなくたっていい。
もう少し金を出せば、こんな屑葉巻でなくって、本物の葉巻を
いくらでも知っているはずの年齢じゃないのか、俺たちは?

でも、今のお前を見ると、
お前がポケットから取り出すくしゃくしゃの千円札三枚を見ると、
俺はどうしても「せめてキンテロくらい吸おうぜ」って言えなくなるんだ。
お前が前のバイトクビになったの聞いたよ。お前が体壊したのも知ってたよ。
新しく入ったバイト先で、一回りも歳の違う、20代の若いフリーターの中に混じって、
使えない粗大ゴミ扱いされて、それでも必死に卑屈になってバイト続けているのもわかってる。
だけど、もういいだろ。
十年前と同じビリガーエクスポートを吸いながら、十年前と同じ、努力もしない夢を語らないでくれ。
そんなのは、隣の席で浮かれているガキどもだけに許されるなぐさめなんだよ。