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 もうひとつは全方位戦から局地戦への戦略転換。ソニーは液晶テレビの販売で00年代半ば以降、韓国勢との価格競争に敗れた。
テレビ子会社、ソニービジュアルプロダクツTV事業部商品設計1部の徳永学統括部長は「コストと機能のバランスを重視した商品戦略が中途半端だった」と敗因を振り返る。
当時、ソニーはサムスンをベンチマークに対抗商品を投入し、総力戦を挑んだ。その結果、開発効率の悪化や商品力の低下を招き、在庫が膨らみ損失が拡大するという悪循環にはまった。

 戦略転換の節目は11年9月16日。「画質と音質、そして使いやすさ。ソニーのテレビの原点を商品開発の軸にすえる」。
今村昌志ソニービジュアルプロダクツ社長は、テレビ事業トップに就任して間もないこの日、社員を前に宣言した。プライドを捨てて韓国勢に背を向け、総力戦から撤退した。

 40以上あった商品数は20以下に削った。採算の悪い機種は開発もやめ、「ガオン(画音)」というソニーの伝統的な強みに集中した。戦線縮小は結果的に4Kテレビの普及時代を迎えたことで花を咲かせつつある。
「シェアを追うのではなく、商品の高い付加価値をしっかり伝えて技術で市場を先導する商品が顧客に評価され始めた」(今村社長)からだ。

■分社化で動きやすく

 昨年7月に実施したテレビ事業の「分社化」も結果的に米国の改革を後押ししている。現場への権限委譲が進んだからだ。

 「稟議(りんぎ)を回すことは減り、何十時間も費やした会議の時間を現場回りに使えるようになった」(今村社長)。
今村社長は日常業務の決裁は事業部長に権限委譲し、自らは商品力向上を狙って部材メーカーやIT企業に足を運ぶ。権限委譲の結果、余力が生まれた今村社長はものづくり手法の変革に挑んだ。

 今村社長は商品の設計開発から生産、販売、収益管理まで特定の商品領域ごとに統括責任者を置く制度を導入した。自動車の開発から生産、販売まで1人の責任者が見届ける「チーフエンジニア」に近い仕組みだ。
従来は商品開発の効率を優先した結果、分業は進んだが、商品に誰も最終責任を感じない「無責任体質」の弊害が目立った。
「魂を入れろ、もっと現場におせっかいしろ」と今村社長は現場を叱咤(しった)する。新制度のもとでの成果が、米グーグルの基本ソフト「アンドロイド」を採用した新型TV。15年から本格的に展開する。