それから10年ほど後になって、当時、時々顔を出していた2chの台湾板
を開いてみたことがある。
コテはすっかり入れ替わり、あのお互いに情報交換して台湾をもっと知ろうという雰囲気ももなかった。
十年一昔。何もかもが変わっていた。
がらんと当時のコテが消え去った台湾ゲストハウススレで一人で延々と煽り続けてる老コテが一人。
その書き込みには見覚えがあった。10年前、くまくんにいつもいたバイトの一人だった。
彼は10年分確実に年老いていた。いや、10年以上の年をとっていたよう に見えた。
まるで玉手箱を開けた後の浦島太郎である。髪の毛はセルフカットしたようなボサボサで
服装もNETのワゴンセールで買った安物を相変わらず着ていた。身なりなど構わないのだろう。
台湾ゲストハウススレには他 に当時のコテが誰もいない。彼には話し相手もいなかった。ぞっとするような光景だった。

たった一度だけの人生。それなのに、彼は10年間、台湾板で泥棒に入ったことをばらされた怒りを他人にぶつけながら、
神経をすり減らし、時間を浪費していったのだろう。彼はそれ を自ら選んだのだ。
台湾板にコピペするのを止めて、他の楽しみを求めることも出来たはずだ。友との語らい、ゴルフ、カラオケ、
恋愛、自己実現。台湾板に背を向 け、トイレ意外は出ることがない部屋の外に出て、街へ、
青空の下へ、彼は出て行くことが出来たはずなのに。
しかし、彼は自らの意志で、台湾板でなおきの悪口を書き込み貶め続ける人生を選んだ。
 都会では街中で大声で見えない何かに対して一人で罵り続ける頭の狂った人を見かけることがある。
そういう人は元犯罪者が多いのだという。インターネットがなかった時代に
外で叫んでいた分裂病の人が現在は彼のようになってしまうのだろう。

考えられる限り、これほど痛ましい人生ってないと思う。