政府の観光需要喚起策「Go To トラベル」が始まり22日で1カ月。

 代金割引で旅行を促す政策で、新型コロナウイルスで打撃を受けた観光業界の期待は大きかったが、夏場の需要掘り起こしは不発に終わった。感染再拡大を懸念し、旅行をためらう人は少なくない。キャンペーンを見直すべきだとの声も出ている。

【図解】「GoToトラベル」の概要

 「7〜9月の旅行予約は前年の2〜3割だ」と大手旅行会社は嘆く。航空各社によると、お盆期間の国内線利用者は前年比65%減。JR旅客6社では76%減となった。9月の4連休も「今のところ動きが鈍い」(別の旅行大手)ことから、状況は大きく変わりそうにない。

 政府はお盆の帰省自粛を求めなかったが、東京都の小池百合子知事は旅行や帰省を控えるよう呼び掛けた。沖縄県や愛知県は独自の緊急事態宣言を出した。政府と自治体で異なる方針が旅行者の迷いを呼んだ。

 キャンペーンをめぐる迷走も尾を引く。感染者が相次ぐ東京都は事業開始直前に支援対象から除外され、混乱を招いた。制度が分かりにくいとの批判は根強く、手続きの煩雑さもあって、キャンペーンに参加登録した宿泊事業者は全体の半分程度にとどまっている。

 感染拡大は今後も懸念材料だ。観光庁によると、新型コロナの陽性者が登録宿泊施設を利用したケースはこれまでに10件確認された。キャンペーンで感染が拡大するとの不安は払拭(ふっしょく)されていない。

 旅行先での買い物に使える地域共通クーポンは9月上旬に取扱店舗の登録を始める予定。ただ、実際にクーポンの配布が始まる時期は、コロナの感染状況を踏まえて政府が判断するという。

 政府は旅行喚起による景気回復と感染症対策の両立を目指すが、達成するのは厳しい情勢だ。野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「事業は拙速だった。すぐにやめるべきだ」と指摘している。