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不動産登記と実体の権利関係の変動が一致することが理想であるが、登記簿上の所有者甲が死亡し、甲の相続人乙が変更登記をしないまま放置されることは普通によくあること。
甲の相続人乙が「不動産を処分したいが、今の甲の登記のままでは買い手もつかないので登記を変えてほしい」という依頼は日常的にある。
その際さらに、「土地を処分しやすいように相続人ごとに土地を分筆してほしい」という依頼も多い。
しかし、不動産の占有者乙が登記簿上の所有者甲の相続人以外の者であるケースは、もう30年近くなる自分の実務の中でも一度もお目にかかったことがない。
登記簿上の所有者甲の相続人以外の者である不法占拠者乙から、丙が不動産を譲り受けようとするなら、まずは登記簿を確認して登記簿上の所有者甲に不動産取引等の事実関係の確認をする必要がある。
そして登記簿上の所有者甲との連絡もつかないなら、不法占拠者乙に対しては、登記簿上の所有者甲との関係を示す戸籍謄本の提示を求める。
当然、登記簿上の所有者甲とは他人である不法占拠者乙には戸籍謄本は提示できないから、丙はその時点で、乙は正当な不動産所有者ではないのではないかという疑問を抱くことが普通。
丙が、一般的に必要とされるこれらの手続を踏まずに、不法占拠者乙の言い分だけを聞いて不動産を取得しても転得者の丙の行為に過失があるのは当然。
したがって、不法占拠者乙からの転得者丙には「常に」過失があり、丙には10年の短期取得時効は成立しない。