「日本人かい? 悪いけど、今夜は満室だよ」

デトロイトで宿を求めた俺に、宿屋の親父はこう言った。

どう見ても繁盛してるようには思えない安宿だったが、
日米貿易摩擦真っ盛りの80年代、アメリカ自動車工場の労働者達によって、日本車と日の丸が燃やされた土地柄だ。

仕方ない。
タクシーを呼ぶため、ポケットからiPhoneを取りだした。
その時、親父の表情が変わった。

「日本人がなぜiPhoneを・・・?」。

「いいものはどこの国だろうと関係ないさ。シャープ゚よりアップルの方がよければそれを使うまでさ。日本人でもね」。

親父は目に涙をためながら、無礼を謝り、俺をガレージへと案内してくれた。

「私は恥ずかしい。
本当は日本が大好きなのに・・・それはアメリカ人として恥ずべきことだと思い、今まで隠してきた。
そして、あなた達日本人にも失礼な態度を取ってしまい・・・。
これからは堂々と愛すべき日本車に乗ろうと思う。
俺のホンダの新車を見てくれ!」

そう叫んで、車のカバーを外した親父に、俺はこう言った。

「いや、それヒュンダイじゃん。」