■優秀な人材の数も半端じゃない
人口13億人から選ばれし中国のエリートたち

超伝導とは、超低温時に電気抵抗がゼロになる現象。送電線などに活用すれば省エネ効果が飛躍的に向上する最先端技術で、
抵抗ゼロになる温度をいかに上げるかを世界各国の研究者が競いあっている。
 '08年、東京工業大学の細野秀雄教授のチームは零下247度で抵抗ゼロになる新伝導物質を発見し、世界の学会から注目を集めた。
しかし、その直後に「誤算」が起きた。中国科学院物理研究所の聞海虎博士が率いるチームが、その温度を一気に30度も上げることに成功したのだ。

「やられた、と思いましたよ。中国の研究者は欧米の一流大学在籍者と本土の研究者間で情報交換し、連携して実験を繰り返しています。
その強固なネットワークの力を借りて、数々の成果を矢継ぎ早に生み出していくのです。
日本が世界に誇っていた材料化学の分野でもいま、中国は飛躍的な発展を遂げています」

 通信分野で盗聴を防げるなど、高度のセキュリティを実現できると期待されている量子通信技術。
その研究を続けている大阪大学大学院教授の井元信之氏も、中国人研究者の実力に脅威を感じている一人だ。

「私たちにはない大量のマンパワーと時間を使って実験をやってしまう。国家の支援も充実している。
理論レベルではまだ負けてないはずですが、うかうかしてられません」

 井元教授と同分野の研究で世界的に高い評価を受けているのは、中国科学技術大学の潘建偉教授。
量子通信技術の実験成果を次々に発表し、著名な科学誌『ネイチャー』などに多数寄稿、
専門家の間では「中国人の中で最もノーベル賞に近い」と言われている。

 中国人科学者の台頭が著しい。中国人が発表した科学論文は約9万5000件に達し、米英に次ぐ3位('07年)。
質の高さを示す引用数も過去10年間続けて世界トップ10入りを果たしているのだ。

 ノーベル賞受賞を逃した京都大学の山中伸弥教授と同様に、iPS(ヒト人工多能性幹)細胞を手掛けた実績を持っている中国人もいる。
米ウィスコンシン大学の兪君英博士がその人で、潘教授同様に、ノーベル賞受賞が期待されている一人だ。

 いまや世界の5人に1人が中国人という「人材大国」。科学分野以外でも、続々と「世界レベル」が出てきている。
音楽界には18歳の史上最年少でショパン国際ピアノコンクールに優勝した李雲迪、
北京にある中国の最高峰「中央音楽学院」にトップの成績で入学し、若くしてシカゴ交響楽団などと共演するピアニスト郎朗。

ニューヨークのサザビーズで絵画が1億円で取り引きされた張暁剛、クリスティーズ香港のオークションで絵画が10億円で売れた曾梵志など、
美術界にも人材は事欠かない。

 中国はここ数年、重点大学を世界一流大学に成長させるために政府が支援する「985プロジェクト」や、
世界の優秀な研究者を集めて国内研究者とタッグを組ませる「大学学科イノベーションインテリジェンス導入プロジェクト」などを実施。

 エリート育成に力を注いできた。現在もその熱は高まるばかりで、中国国内では学校間での教育競争がすさまじいことになっている。
法政大学比較経済研究所の牧野文夫所長が言う。

「一定のレベルに達していない教員の3分の1を入れ替えようとしているところもあるほど、中国の各大学は実績作りに全力をあげている。
中国南部にある貴州省の複数の中学校では、教員の評価、給料、ボーナスなどを学校の掲示板に張り出していた。
先生たちも必死で成果を出さなければ、高給を指弾されるというわけです」

 13億人というパイから生まれるから、優秀な人材は半端じゃない数に膨れ上がる。人口1億あまりの日本など、ひとたまりもない。