【NHK特集】「なぜ脱退か 鯨と政治家」
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/13154.html

2019年1月23日
「日本は商業捕鯨禁止のルールに逆らうことになる」(英BBC)
「反捕鯨国であるオーストラリアやニュージーランド、アメリカは、非常に深刻に受け止めている」(豪ABC)
年の瀬が迫った去年12月26日、日本政府は、IWC=国際捕鯨委員会から脱退し、ことし7月から商業捕鯨を再開すると発表した。
日本が広く知られている国際的な機関から脱退するのは極めて異例だ。
海外から批判や反発が相次ぎ、国内からも懸念の声があがった。
クジラを食べたことがない若者も増える中、なぜ捕鯨再開にこだわるのか。
その背景には、政治家の意向があった。舞台裏に迫る。
(政治部 関口裕也)

[きっかけは、ある政治家]
IWCからの脱退が発表された日の自民党本部。
「我々からすると…神様みたいなもんですよね」
記者団にそう話したのは、和歌山県太地町の三軒一高町長。直前に面会した二階幹事長のことをそう表現したのだ。
太地町は、衆議院の選挙区でいえば和歌山3区、二階氏の地盤だ。
紀伊半島の南に位置し、太平洋に面している。網やモリを使ってクジラを捕獲する「古式捕鯨」発祥の地とされる。
長年、商業捕鯨の再開を切望してきた三軒氏は、脱退は地元選出の二階氏の尽力があってこそと強調する。
「幹事長は、懸命の努力を、地方の声を官邸に届けてくれた。その結果だと思っております」
その二階氏。IWC脱退について、次のようにコメントしている。
「政府を全面的に支持する。IWCは組織が変質し、反捕鯨国は鯨に依存する漁業者の暮らしを一顧だにせず、
商業捕鯨を再開するためには、IWCから脱退するしかない。今回の決定は、商業捕鯨の再開を待ち望んでいた全国の願いをかなえるものだ」
「どうして他国の食文化に文句を言ったり、高圧的な態度で出てくる国があるのか。日本が他国にそんなことをしたことがあるか。
我々は再三再四、脱退も辞さないと前々から警告してきたが、一顧だにせず、『クジラがかわいい』とかそんな話ばっかりだ。
我々が脱退するということは、並々ならぬ決意であるということを、ご理解いただきたい」

[IWCと日本の捕鯨]
ここで、IWCとはどういう組織で、日本の捕鯨との関係がどのようなものか、ひもといておこう。
IWCは1948年に発効した国際捕鯨取締条約によって設立された組織で、もともとはクジラの資源を保護し、捕鯨を続けていくために設立された。
日本は1951年に加盟。ホームページによると、加盟国は日本を含め89となっている。
日本ではクジラの肉はタンパク源として重宝され、1960年代には「商業捕鯨」は最盛期を迎えた。
しかし、シロナガスクジラなどの貴重なクジラが減少したとして、次第に国際的な批判が高まり、1982年にIWCで「商業捕鯨」の一時停止が決議された。
日本は異議申し立てをしたものの1985年に取り下げ、1987年からは資源量や生態調査などを行う「調査捕鯨」を行ってきた。
この「調査捕鯨」で捕獲された肉が、「調査副産物」として日本国内で流通しているのだ。
また、IWCが管轄しないツチクジラなど小型のクジラに限って捕獲する沿岸の捕鯨が、太地町など一部で小規模に行われている。
今回、日本は脱退を表明したが、実は過去にも例がある。先住民が捕鯨を行うカナダは、1982年の「商業捕鯨」一時停止の段階で脱退。
アイスランドも1992年に脱退しているが、その後再び加盟し、2006年に「商業捕鯨」を再開している。
そもそも、捕鯨をしていてもIWCに加盟していない国もあるが、加盟国で「商業捕鯨」をしているのは、アイスランドとノルウェーだ。
加盟国の中では、捕鯨を支持する国と反対する国が拮抗(きっこう)する状態が続いている。