ユヴァル ノア ハラリ〈サピエンス全史〉上下を読了した。
扱っている対象は過去だが、枠組レベルの問題が主題なので、
むしろ人類学の著書と言うべきだろう。
ジャレド ダイヤモンド〈銃・病原菌・鉄〉と同じジャンルに属することになる。

読みながら連想していたのは、小松左京〈空から堕ちてきた歴史〉だった。
これは架空の宇宙人の地球観察記録というスタイルの歴史書だが、
ハラリの記述スタイルは近いところがあって、
霊長類の一系統が地球を支配する過程を
地球外から観察しているような目線で書いてある。
「人の命の特別な価値とか、貨幣とかいったものに対する尊重感情は、
 客観的根拠を持たない信仰なのだ」
という説明が、そういう目線の自然な帰結として出て来る。
ネットで感想を読むと、そういう目線が斬新だったらしいが、
SF読者にとっては割と常識レベルの内容である。

「重要なことは判っているというのが近代以前の感覚で、
 重要なことが判っていないと無知を意識するようになったのが近代の始まり。
 無知を自覚しなかったアジア諸国は停滞し、
 無知を自覚した西欧は空白を埋めようとして発展した。
 地図の空白を埋めようとしたのが帝国主義で、
 知識の空白を埋めようとしたのが近代科学だ」
という指摘に同意する。
ちょうど同じようなことを考えていた。
私が考えていたのは、日本の技術研究の停滞の理由、
かつて世界に君臨した電機産業の衰退の理由という文脈だが。