>>32 の続き

 グミリョフはこの過酷な監禁生活のなかで、「抑圧のなかに閃きの兆を見出し、極限状況においてこそ人が生きるうえでの本質的な真実が明らかにされる」と信じた。ユーラシア主義に傾倒したグミリョフは、「モンゴル人こそロシア人がロシア人たる所以であり、西側の退廃からの避難所である」とし、ユーラシアとは、「太平洋岸から、西端の無意味で病んだヨーロッパ「半島」にまで伸びてゆく、誇るべきハートランド」だと考えるようになった。

 グミリョフの神秘思想では、人間の社会性は「宇宙線」によって生まれ、それぞれの民族の起源を遡れば、宇宙エネルギーの大放出にまで辿り着く。西側諸国を活性化させた宇宙線ははるか昔に放たれたため、いまや西欧は没落の途上にあるが、ロシア民族はキプチャク・ハン国軍を破った「クリコヴォの戦い」(1380年9月8日)に放出された宇宙線によって生まれたので、いまだ若く生命力に満ちあふれている。

 グミリョフによれば、すべての「健康な」民族は宇宙線から誕生したが、なかには他の民族から生命を吸いとる「キメラ(ライオンの頭,ヤギの胴,ヘビの尾をもつギリシア神話の怪物)のような集団」もいる。この集団とはユダヤ人のことで、「ルーシの歴史とは、ユダヤ人が永遠の脅威であることを示すものだ」という強固な反ユダヤ主義を唱えた。

 わたしたちはみな、生命体として宇宙エネルギーの影響を受けているが、まれにこの宇宙エネルギーを大量に吸収し、それを他者に分け与えることができる者がいる。これが「パッシオナールノスチ」で、この特別な能力をもつ指導者こそが民族集団を創る。

 イリインのいう「無垢なるロシアを復活させる独裁者」と、グミリョフの「パッシオナールノスチを有する指導者」は、その後、アレクサンドル・ドゥーギンによってウラジミール・プーチンという一人の政治家に重ね合わされることになる。