原作未読、だけど只管圧倒された。
凄い映画であり素晴らしく純粋な物語。

米ノースカロライナ州の湿地地帯で発見された一人の青年の死体、容疑者として拘束されたのは『湿地の娘』と呼ばれ街の人々から遠巻きにされる湿地帯の奥地に一人住まう若い女性。この事件を切っ掛けに語られる『湿地の娘』カイアの物語。

謎解きミステリーがメインかと思いきやミステリー要素はほぼ無く、光溢れ命が躍動し深い緑の生い茂る静かな湿地の美しく強かで雄大な風景とそんな湿地に溶け込む様に暮らし日々を生きるカイアの無垢で靱やかな姿に魅入り…ただ後半どんでん返しの様に大いに驚かされる。
『湿地の娘』カイアが親兄弟が去る中一人湿地に取り残され、必死に生き抜きながらも人々に疎まれ蔑まれ、それでも寄り添う雑貨屋の夫婦や親しいテイトと心通わせ、最後は偏見の目を解いてくれた人の優しさによって救われハッピーエンド…この映画はそんな話かと思わせておいて、そうではないと思い知らされる。

終盤の数分で光溢れる湿地帯が抱く暗く深い沼地の冷たさ、純粋さの裏側にある"生き残る"事への非情なまでの貪欲さ強かさを垣間見て愕然とする。ああ、彼女は正しく『湿地の娘』だったんだと思い知らされる。
余所者への侮蔑と嫌悪感、差別感情に満ちた人々によって劇中何度も何度も繰り返され、不条理に蔑まれるカイアへの共感や義憤、憐憫の感情を抱く偽善者(私含む)には聞くのも嫌気がさすこの言葉こそがこの物語の真実だったと突き付けられる。