2011/9/11のあの日、アメリカ同時多発テロ事件によって喪われた命は約7000人。
その中には世界を股にかける企業の役員もいれば、レストランの皿洗いもいて、そして彼らを救うために飛び込んでいった消防士もいて…
そんな多様な人々に対して補償金を分配しなくてはいけない大仕事を買って出た、一人の弁護士の物語。

亡くなった当時の年収と、遺された家族の人数。
当初はその2つの要素だけで命の値踏みをしていたファインバーグ氏は、当然非難の的になってしまう。
だが数千人もの被害者とリアルに会話をし、想いや事情を聞いた結果、ファインバーグ氏の判断は少しずつ変わっていく。

年収と家族の人数など、人を表す数字はたくさんある。
数字ごとに判断すべきことや、補償金を頭数で等分できない事情があるのは真理だろう。
しかし数字でしか見ていなかった一人一人の背後には、いきなり命を奪われたあの日まで異なるそれぞれの人生があって、遺された家族にもそれぞれ異なる想いや事情があったのもまた事実。
遺族が末期がんだったり、同性パートナーだったり、隠し子がいたり…
人の人生には、数字や一定の基準で測れない感情や事情が渦巻いている。
それを理解するには、一人一人の声を聞くしかない。

限られた時間の中でヒアリングを重ね、壮絶な「家族を喪う」という体験を、数千人分繰り返したファインバーグ氏。
信じられないほど重たく、辛い体験だっただろう。
できれば誰もやりたくないこと、でも誰かがやらねばならないこと。
そんな仕事に真正面から向き合い、一人一人の"愛する人を喪った悲しみ"に寄り添った、真の英雄の物語だった。