日銀はなぜ利上げをしないのか――マイナス金利について考える
https://synodos.jp/opinion/economy/28365/

1.利上げと日銀のバランスシート
国債暴落で日銀が債務超過に?

日銀から公表されている「営業毎旬報告」でバランスシートの状況をながめると、
現時点(2022年9月30日現在)において日銀は545兆円の「国債」を資産として保有している(端数は切り捨てにより表示)。
その内訳は、長期国債536兆円、国庫短期証券9兆円。日銀の資産の合計は684兆円だから、実に資産の8割近くが国債ということになる。
この数字をみれば、利上げで国債価格が下落すると日銀が債務超過に陥るのではないかという懸念が生じたとしても、不思議なことではないだろう。

だが、ここで留意が必要なのは、日銀は満期保有を前提に長期国債の買い入れを行っているということだ。
この取り扱いにあわせて、国債の会計上の評価は償却原価法(取得時の価額と償還時の価額の差額を利息に相当するものととらえて、
毎期均等に貸借対照表価額に加減する会計方式)をもとに行われており、この会計処理の際に国債の時価が入り込む余地はない。

もちろん、日本政府の信用力が低下して、償還時に額面を下回る金額でしか償還がなされないようなおそれがあれば、
時価を反映させない会計方式は不適切なものということになるかもしれないが、
そうでない限り、この取り扱いは自然なものだ(満期保有を前提とする債券について償却原価法をもとに経理することは、
日銀固有の独特な会計方式ではなく、より一般的な原則に沿ったものである)。

したがって、
「利上げをすると国債暴落が起き、日銀のバランスシートが債務超過になる」
「債務超過になるのをおそれて、日銀は利上げができないままでいる」
というのは立派な「トンデモ経済学」ということになる。