難解で特殊なようで、単純で凡庸な気もする、分かるようで分からないような、そんな物語ながら、終始惹きつけるチカラが見事。

基本的に、シンプルな物語が好き。
頭も良くないし、裏の裏を読んだり、メタファーを読み取ったりといった読解力が高くないので。
というわけで、今作のような、分かるようで分からないような作品にあまりハマることは無いのだが、今作は素晴らしかった。
この、一歩間違えれば意味不明で退屈なだけで終わってしまいそうな物語を、これだけ惹きつける作りで仕上げた点に、監督の手腕を感じる。
思えば『スリー・ビルボード』でもそんなところがあったか。その辺が上手い監督なんでしょうね。

例えば、とにかく俳優陣のイイ顔っぷり。
みんな良いけど、コリン・ファレルがあまりに良すぎる。
コリン・ファレルの表情一つでもってしまう良さがある。
そして構図の美しさ。
久々にこんな、ずーっとレイアウトが美しい映画観たな、というぐらい。
絵画的だった気がしますね。屋内での光の差し込み方とか特に。
基本ハッピーな物語ではないけど、映像には暗さやドンヨリしたところがなく、不釣り合いな程画面が美しい。
こういう、見た目の良さが、終始目を離せない引力になっていた。

物語は、前述の通り難解なようで単純なようで…いや起きてる出来事それ自体は物凄い単純なんですよね。
それでいて、なんで?という異常な展開へ進んだり、落ち着くかと思えばまた悪化したり、結局決定的に歯車が狂ったり…オッサン同士のちっちゃい喧嘩だったはずが、なんでこうなった?という方向へ進む。
一言で言えば、「上手いこといかない」感。
じゃぁこれがひたすら意味不明な物語なのかと言うと、そうではなく、どこにでもありそうな普遍的な事を描いていると思う。
そういう点で、あぁ…と、己に当てはめてしまう部分もあり、そこがグサグサと刺さった。

刺さらなかった人は、きっと刺さらないままでいいんだと思う。
それが幸せだ。