奴はわしが子供の頃も、わしを子供扱いせずに真摯に植物の事を教えてくれた。
自分が殖やした希少植物を王国中に広めて、絶滅しかかっている植物を普通の植物に
格下げしてやるのだ、と目を輝かせて語ってくれたものだ。

だがな、奴は勘違いしていたのだ。自分以外の園芸家も、自分と同じように植物を
愛しているのだとな。普通の園芸家にとって、園芸植物は使い捨ての、根のついた切り花だ。
だから奴が心血を注いで殖やし、配布した希少植物も、まともな扱いはされなかった。
1年たつと半分枯れ、5年たつと1割も生き残っておらず、10年後に育てているのは奴一人に
戻っておった。

それでも奴は諦めなかった。自分が育てるのを止めてしまったら、希少植物は王国から
絶滅してしまうと言ってな。傍から見ていると、自分一人で血を吐きながら悲しいマラソンを
続けているかのようだったわ。

・・だがな、ある日奴はとうとう壊れた。奴が苗を送ってやった相手がたずねてきてな。
また苗をわけてくれと言ったのだ。「植替えしないでいたら枯れちゃってさー。また
苗をくれよ。たくさんあるんだから問題ないだろ?」とな。
奴は無言でそやつに水をかけて追い返した。赤い顔になって怒りで震えておった。

だからわしは言ったのだ。「草ごときの事で、あまり心を病むな」とな。

・・その夜に奴は温室に油をまいて火をつけ、その中に飛び込んで命を断ったのだ。

次回「その20」