その考えは間違っています、とは山田には言えなかった。
当然ながら貴族に対し、フセイランの扱いについて考えてください、と言い出せる雰囲気
ではなかったし、仮に言っても聞いてはもらえなかっただろう。

では、その時に山田には何ができたのだろうか。
このフセイランを譲ってください、譲っていただいた事は絶対に口外しません、
私の全財産をお渡ししますから、と言ってドゲーザをして懇願すれば、あるいは譲って
もらえたかもしれない。だが、山田領には神木も茸人も存在しない。連れて帰ったと
しても「女王」のその後の運命に変わりはない。

では故郷の森に帰してやるか。しかし、「女王」2人の命を支えられる人数の茸人はもう
残っていない。仮に茸人が残っていたとしても、森で健康が回復した時点で再度あの領主に
狩られるだけの話である。

ならばその場から連れて逃げて、彼女が力尽きたあとは黒く干からびた屍体を匣(はこ)
に入れて背中に背負い、一緒に全国を旅して回れば満足できるだろうか。
山田がそれを解決策だと思える人間だったならば、この物語がそういう結末で終わった
可能性もあったのだが・・

結局、山田がしたのは黙って貴族の館を立ち去ることだった。
山田はこれから彼女がどうなるか、すべて理解していた。その上でーー

彼女を見殺しにした。

次回「その22」