だが、山田が驚いたのは違法ドラッグだったからではない。魔タタビはエルフの里以外では
結実しないとされているからである。王立植物園でも数系統の個体が許可をうけて
栽培されているが、人工授粉で他系と交配しても稀に小さな実ができるだけで、
完熟前にすべて落果してしまう。完熟果実はエルフの里から門外不出とされており、
実物を見たことのあるヒト族がほとんどいない、幻の果実だったのである。

現在ではエルフの里から魔タタビの実を持ち出すのはオーストラリアからカモノハシを
持ち出すよりも難しく、個人であれば合法・非合法を問わずほぼ不可能と言ってもよい。
密輸を試みて発覚すれば種族間問題に発展し、犯人は勇者から直々に討伐される
ような品物である。そんなものがどうしてここにあるのか。
不謹慎な話であるが、山田は植物屋として限りなく興奮を感じていた。